第10話

在る爆弾
4,004
2019/07/27 14:39
久しぶりに嗅ぐ...畳の匂い
中島 敦
中島 敦
...ん...
鳥達が鳴く声を聞いて、少年は目を覚ます。
中島 敦
中島 敦
(あれ...此処何処だっけ...?)
少年───中島敦は昨日の事を思い出そうとした。
中島 敦
中島 敦
(確か...昨日...)
───『変身中の記憶は全く無しかい?』
中島 敦
中島 敦
『何の事です?』
『あ、でもまだ右手に残ってる』
中島 敦
中島 敦
『右手...?』
敦が云われた右手を上げると、其処には白くもふもふな虎の手が在ったのだった───
中島 敦
中島 敦
......ッ!?
敦は慌てて飛び起きて右手を凝視するが、其処には何時もと何ら変わりない人間の手があった。
取り敢えず動かしてみるが、違和感もなかった。
中島 敦
中島 敦
はぁ〜...
敦は安堵して深く溜息をついた。
周りを見回してみると、其処は小さなアパートか何かの一室で、台所、畳敷きの居間がある。
其の居間にしかれていた布団に敦は寝ていたのだった。
中島 敦
中島 敦
久しぶりだな〜、天井
そんな時だった。
ピピピピピピッ♪
高い電子音がけたたましく鳴り響いた。
中島 敦
中島 敦
え、何、何、何!?
敦は漸く其の原因である携帯電話を見つけることが出来た。
ピピピピピピッ♪
中島 敦
中島 敦
えっ!?(此れ、僕でなくちゃいけないよね...!?)

う、うぇえ、はい!はい、出ます、出ます今出ます、すぐ出ます...!?ぼ釦何処...!?は、早く動いて!?あ〜、何れだ!?あ、も...もしもし!
電話に出ることに漸く成功した敦。
太宰 治
太宰 治
「グッドモーニン!」
携帯電話から聞こえたのは、明るく陽気な声
中島 敦
中島 敦
あ...太宰さんですか...
太宰 治
太宰 治
「今日もいい天気だねぇ〜。新しい寮の方は如何だい?」
中島 敦
中島 敦
お陰様で、野宿に比べたら雲の上の宮殿のようです...!
太宰 治
太宰 治
「其れは良かった。枕元の着替えは探偵社の皆からのプレゼントだ」
中島 敦
中島 敦
本当...何から何まで有難う御座います...!
太宰 治
太宰 治
「所で敦君、いきなりで申し訳ないが...実は、緊急事態が発生したのだ」
太宰の声が急に緊張感を帯びた声になる。
中島 敦
中島 敦
緊急事態...?
太宰 治
太宰 治
「ああ、一刻を争うのだよ。急いで私が指定する場所に来てくれ。大変な事態だ...!君だけが頼りだよ...!?」
中島 敦
中島 敦
は、はい。分かりました...!
───敦は早急に着替えを済ませ、靴紐を結ぶ。

片手には携帯電話。
太宰 治
太宰 治
「用意は良いかね、敦君?」
再び電話の向こうの人物と話し出す。
中島 敦
中島 敦
はい...!
太宰 治
太宰 治
「先ず部屋を出たら、ドアをちゃんと閉めて...後ろを見よ!」
云われた通りにドアをきちんと閉めて振り返る。
中島 敦
中島 敦
後ろ...?...あッ...!?
敦の目が、ある男の足を捉えた。

すぐさま駆け寄る敦。
中島 敦
中島 敦
えっと...之はなんですか?
其処にはつい今しがたしていた電話の相手、太宰治がドラム缶に嵌っていた。
太宰 治
太宰 治
何だと思う?
何時もの調子で太宰が問う
中島 敦
中島 敦
...朝の、幻覚...?
───だと信じたいのだが
太宰 治
太宰 治
はっずれー!
中島 敦
中島 敦
真逆、敵の襲撃ですか!?罠に掛かったとか...?
───それ以外に思いつかないんだけど...!?
太宰 治
太宰 治
否、自分で入った
中島 敦
中島 敦
はぁ!?
予想外すぎる答えに、思わず敦が声を上げると、太宰は説明を始めた。
太宰 治
太宰 治
否何ね、こうしてドラム缶に嵌る自殺法が有ると聞いたものだから、ちょいと試して見たのだよ。ところがこうやって試してみると、苦しいばかりで、一向に死ねない。しかも此処まで嵌ると、自力では出られない。死にそう〜
中島 敦
中島 敦
あぁ...でも、自殺法なのですから其の儘そうしていれば何れ自殺出来るのでは?
尤もな意見だ。
太宰 治
太宰 治
私は自殺は好きだが、苦しいのも痛いのも嫌いなのだ!当然だろう!
敦は段々呆れてきた
中島 敦
中島 敦
成程...はぁ。...えい
ドラム缶の縁を掴み、自分の奥側へと押し転がした。
太宰 治
太宰 治
───おぉっとぉ!
ガランガランとドラム缶が地面を転がった。
太宰 治
太宰 治
───んん〜。はぁ、痛かった!
太宰は腰の骨をポキポキと鳴らしている。
太宰 治
太宰 治
助かったよ、敦君。君が居なかったら腰からポッキリ二つ折りになる所だった!
中島 敦
中島 敦
他の同僚の方に助けは求めなかったんですか?
太宰 治
太宰 治
そりゃああなた以外には電話したよ〜、死にそうなんだけど、って。そしたら皆口を揃えて、「おめでとうございます」だってさ。どう思う?
敦は内心凄く納得がいった。
太宰 治
太宰 治
全く、異能力者って奴は何処か心が歪だ
中島 敦
中島 敦
そう云えば、あなたさんに助けは求めなかったんですか?
太宰 治
太宰 治
あぁ、あなたねぇ。あなたは今頃未だ夢の中だろう。あの子本当良く寝るから
中島 敦
中島 敦
へ、へぇ。そうなんですね
太宰 治
太宰 治
そんなあなたの眠りを邪魔する訳にはいかないだろう?
そんな太宰の言動に、敦は苦笑いを零した。

プリ小説オーディオドラマ