久しぶりに嗅ぐ...畳の匂い
鳥達が鳴く声を聞いて、少年は目を覚ます。
少年───中島敦は昨日の事を思い出そうとした。
───『変身中の記憶は全く無しかい?』
『あ、でもまだ右手に残ってる』
敦が云われた右手を上げると、其処には白くもふもふな虎の手が在ったのだった───
敦は慌てて飛び起きて右手を凝視するが、其処には何時もと何ら変わりない人間の手があった。
取り敢えず動かしてみるが、違和感もなかった。
敦は安堵して深く溜息をついた。
周りを見回してみると、其処は小さなアパートか何かの一室で、台所、畳敷きの居間がある。
其の居間にしかれていた布団に敦は寝ていたのだった。
そんな時だった。
ピピピピピピッ♪
高い電子音がけたたましく鳴り響いた。
敦は漸く其の原因である携帯電話を見つけることが出来た。
ピピピピピピッ♪
電話に出ることに漸く成功した敦。
携帯電話から聞こえたのは、明るく陽気な声
太宰の声が急に緊張感を帯びた声になる。
───敦は早急に着替えを済ませ、靴紐を結ぶ。
片手には携帯電話。
再び電話の向こうの人物と話し出す。
云われた通りにドアをきちんと閉めて振り返る。
敦の目が、ある男の足を捉えた。
すぐさま駆け寄る敦。
其処にはつい今しがたしていた電話の相手、太宰治がドラム缶に嵌っていた。
何時もの調子で太宰が問う
───だと信じたいのだが
───それ以外に思いつかないんだけど...!?
予想外すぎる答えに、思わず敦が声を上げると、太宰は説明を始めた。
尤もな意見だ。
敦は段々呆れてきた
ドラム缶の縁を掴み、自分の奥側へと押し転がした。
ガランガランとドラム缶が地面を転がった。
太宰は腰の骨をポキポキと鳴らしている。
敦は内心凄く納得がいった。
そんな太宰の言動に、敦は苦笑いを零した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。