突然だが、あなたは表情というものが乏しい。
それが、あなたと出会った日………あの血にまみれた日からずっと、私が見てきたあなただ。
あなたの異能、『械人形の様に』は、糸で人や物を操る異能力である。
あなたの異能は無数の糸を放ち、
絡みつき、数々の命を奪ってきたことだろう。
そんなあなたの異能は、
あなたには完全に制御できていない。
そのお陰か、あなたは無意識の間に自身の表情まで操ってしまっているのである。
───私のこの手であなたに触れたら、
一体どんな表情を見せてくれるのだろうか。
私はその一心で彼女をここまで連れてきたのだ。
あなたの異能は、
殺人に向きすぎている。
そんなあなたを、
森さんが逃すわけはないだろう。
だから、私が手を引いた。
光の世界であなたが見せてくれる表情に、
淡い思いを抱いて………
そっと手を伸ばし、
彼女の白い頬に触れる。
横で静かに眠るあなたは、
まるで綺麗な仏蘭西人形のようで。
あの赤い月の日、
汚れた人形へと成り果ててしまった君が
満面の笑みを見せてくれたなら、
私は生きていて良かった、
と思えるのかもしれない。
───だから、
君が忘れてしまったものを思い出すまで。
君が笑ってくれるまで。
そう思っていたのだけれど。
君の沢山の表情をずっと傍で見ていたい。
等と贅沢な事を思うのは何故だろう。
───その答えは、
まだ私の中では出ていない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。