第9話

終わりの始まり
49
2019/10/19 06:47
これでよかったのか。
それからまた、特に仲良くもない先生と生徒に戻った。卒業式の日まで、またぼんやり時が過ぎた。
卒業証書を受け取って、涙ひとつ流さず卒業式を終えた。クラスの子達は写真を撮ったり、お互い元気でねなんて言い合っていたけれどそんな空気から逃げるように先生を探した。
見つけた。細身の後ろ姿。
「…先生」
「間宮…」
「好きです」
「…」
「返事をください」
「…きっと俺はお前を傷つける」
「いい。構わない。先生がいなきゃ私は、文字通りいないんだから」
「…変わったな…」
どこか悲しそうな目で微笑んだ。
「今日ご両親は?」
「父は外せない出張、母は緊急の手術で3日泊まり込みで来てない」
「…そうか」
先生はまた私の髪を撫でて言った。
「少し、付き合ってくれるか」
不思議な匂いのする、先生の車に乗ってしばらく走った。
少し前までいい天気だったのに、直に空が泣き出した。あたりは暗くなって、寒さを忘れた3月がまた冬に逆戻りした。
1時間くらい、2人とも一言も話さず車に揺られた。どこへ行くのかすら言ってくれなかった。
「着いたよ」
いつの間にか寝ていた。
降りると、冷たい風が髪とスカートを巻き上げた。
「…海…」
「“彼女”の、眠る場所だよ」
「ここが…」
あの日みたいに、傘もささず雨の中2人でただ立って海を眺めた。
「ごめん、間宮。俺は今日彼女のもとへ行こうとしてる」
「…」
「車の中を見ただろ。たくさん薬が置いてあったよな」
「…」
「お前のことを好きになった俺は悪いやつだ。忘れられない人がいるのに、お前を好きになったんだ」
「先生。全部話して」
寒いのも忘れて先生の目を見つめた。
よく見たら先生だって空っぽの目をしてた。

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