第5話

久しぶり、と初めまして
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2019/10/15 14:00
楽しい時間を引き裂くように、無感情なチャイムが鳴った。最終下校時刻になったらしい。
「おっと、今日はここまで…かな。俺が暇な時はいつでも来ていいよ…って暇って言ったら俺が仕事してないみたいだな」
しまった、という顔が可愛くて、声を出して笑ってしまった。
「あれ、間宮の笑い声って初めて聞いたかも」
「…そうですか?」
「うん。今日喋ってる間もさ、顔は笑ってたけどなんていうか、こう、…目が笑ってない?あっ、ごめんごめん変な意味じゃないよ」
少し考える素振りをしてから、先生は口を開いた。
「授業も間宮は真面目だし、俺は担任じゃないけど優秀なのは伝わる。でも間宮っていつも冷静で、俺の話ってつまんないのかなって思ったりしたから嬉しかっただけだよ」
そういえば声を出して笑ったのも久しぶりかもな。そもそも一日で誰とも会話を交わさないことも珍しくない。下手すると声の出し方も危うくなる。
「…先生、ありがとうございました」
「はは。可愛い生徒だよ、ほっとくわけないだろ」
可愛い生徒。深い意味の無いその言葉にまた胸がはねると同時に、私だけじゃないってことにも気づいてしまった。
心が震えるみたいな初めての感情。
これをなんて呼ぶのか、私は知らない。








知りたくない。











学校を出て家に帰って、ドアを開けてももちろん誰もいなかった。
分かりきってたことなのに、妙に涼しい風が心に吹き抜けた。
寂しいなんて言ったら負けてしまうようで、涙が溢れそうで怖かった。

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