第15話

十四話 獣の騎士
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2022/02/09 16:08
学校の敷地内に入ると、外廊下の方に機材が沢山置いてあり、人が数人集まっていた。
その中に、ディアソムニア寮ですれ違った銀髪の青年と、一際目立つ容姿を持った金髪の青年が立っているのを目にする。
ヴィル・シェーンハイト
ヴィル・シェーンハイト
シルバー、さっきのセリフはもう少し感情を込めて。マレウスに伝えるつもりで……!
シルバー
シルバー
ま、マレウス様に?
そう言われてもな……
あなた
あなた
(カメラもあるし……何かの撮影か?)
ついつい足を止めていると、背後から「そこで突っ立って何してるんだ」と声を掛けられ、振り返る。
あなた
あなた
クルーウェル先生……
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
ん?手に持っているものは何だ
あなた
あなた
これは……
私が口を開いた瞬間「クルーウェル先生、その子誰なの?」と、先程まで銀髪の青年と話していた金髪の青年が真横にやって来て私を見る。
ヴィル・シェーンハイト
ヴィル・シェーンハイト
アンタ、顔をアタシによく見せてみなさい。……あら?もしかして本当に女子?
あなた
あなた
(“アタシ”?この青年……女性的な口調だな。次郎太郎を思い出す)
ヴィル・シェーンハイト
ヴィル・シェーンハイト
何で女子が……そうえば、ケイトが女の子の監督生が来たとか騒いでた気がするわ
あなた
あなた
(ケイトって、エース達と同じ寮の先輩だったな。もしやこの青年?は彼の同級生だろうか)
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
今日ナイトレイブンカレッジに来たばかりの魔力を持たない人間だ。詳しい原因は俺には分からんが、異世界から召喚されたらしい。そして、俺が担任をしているクラスの仔犬でもある
ヴィル・シェーンハイト
ヴィル・シェーンハイト
異世界ですって?しかも魔力を持たないでナイトレイブンカレッジに入るなんて……学園長もよく許したわね。まぁいいわ。アタシはポムフィオーレ寮の寮長にして三年のヴィル・シェーンハイト。アンタ、名前は?
あなた
あなた
あなただ
あなた
あなた
(ポムフィオーレ寮……エペルと同じ寮か)
ヴィル・シェーンハイト
ヴィル・シェーンハイト
あなたね。よろしく
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
シェーンハイト、そっちは映画研究会の最中か?
ヴィル・シェーンハイト
ヴィル・シェーンハイト
えぇ、そうよ。丁度シルバーを見つけて捕まえたから、一言のセリフを言って演技してもらってたんだけど……
セリフを言うのが恥ずかしいみたいでぎこちないのよね。マレウスが居ると思って言えばいいって言ったんだけど
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
話の内容も気になるが、どんなセリフなんだ?
ヴィル・シェーンハイト
ヴィル・シェーンハイト
“この命尽きるまで貴方様の剣として、婚約者として傍に居させて欲しい”ってセリフよ。獣になってしまった騎士の役で、顔はCGで動物にするから映らないわ。最初の部分はいいんだけど、後半からぎこちなくなるのよね
ヴィルの話を聞いて、私は思わず吹き出しそうになった。クルーウェル先生も眉間に皺を寄せ、若干引き気味だ。
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
前半のセリフならまだしも、あのマレウス・ドラコニアがその場にいると想像しながら後半のセリフを男のシルバーが言うのは……もはや罰ゲームだろう
ヴィル・シェーンハイト
ヴィル・シェーンハイト
シルバー達が一番信頼していて忠誠を尽くしているのはマレウスやリリアしか居ないんだもの。それ以外の人は具体的に想像出来ないみたいだし
話を聞く限り、シルバーは偶然居合わせたヴィルに“強制”参加させられたのだろう。
嫌々ながらもここまで付き合うとは、彼も真面目なのか単に押しに弱いのか……。
あなた
あなた
顔をCGで隠すのであれば、他の生徒でも良いのでは……?
ヴィル・シェーンハイト
ヴィル・シェーンハイト
顔を隠すから何でもいいってものじゃ無いわ。シルバーは細すぎず、かといって筋肉質になり過ぎず、体型もオーラも声も今回の騎士役に理想的なのよ
あなた
あなた
こだわりがあるんだな……
デイヴィス・クルーウェル
デイヴィス・クルーウェル
シェーンハイトはモデルも俳優もしており、常にベストを尽くそうと心掛け、努力している。妥協したくない気持ちは俺も分からんでもない
あなた
あなた
芸能人だったか……
薄々感じてはいたが、ヴィルもクルーウェル先生も美意識が高く、ファッションや流行りにうるさそうだ。二人を見て脳内を過ったのは歌仙兼定や燭台切光忠、松井江や加州清光、乱藤四郎などの美意識高いオシャレ刀剣男士。歌仙や松井に関してはオシャレ云々より、作法や整った身なりに重きを置いているのかもしれないが。
幼い頃に母が亡くなった後、私は刀剣男士達に面倒を見られてきた。私がこの場に居るのは彼等のおかげと言っても過言ではない。
じゃなきゃ、村にいた時と同様ずっとボロ姿だっただろう。
ヴィル・シェーンハイト
ヴィル・シェーンハイト
そうだわ、あなた。時間あるかしら?
あなた
あなた
(嫌な予感しかしない)
ヴィル・シェーンハイト
ヴィル・シェーンハイト
時間があるならシルバーの相手役をしてくれないかしら?
安心なさい。相手役と言っても姿は映さないしセリフも無いわ。
シルバーの前に立つだけで良いから
あなた
あなた
立つのは構わないが、私でいいのか
あなた
あなた
(私にはよく分からないが、人によっては相手が誰かでやる気を削がれる者もいるだろう)
シルバー
シルバー
俺からも頼む
いつの間にかシルバーも会話に入り込み、内心ギョッとした。
シルバー
シルバー
ここまでやったからには、せめて最後まで与えられた役割を全うすべきだ
あなた
あなた
君がいいと言うなら……
責任感が強いのは良いが、正直、本来巻き込まれただけのシルバーがそこまで責任を感じる必要はあるのかとすら思えてくる。
ヴィル・シェーンハイト
ヴィル・シェーンハイト
なら、早速始めるわよ
─────ヴィルの言葉で撮影は再び開始された。

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