─────────本丸にて。
古株である鶴丸と、今後どうするか話し合おうと鶴丸を探すが、姿が見当たらない。
何処へ行ってしまったのだろうか。
安定が振り返りながら言い、膝丸が「俺達の部屋の前で別れてから会っていないな」と答える。
膝丸の言葉に髭切は「うんうん」と頷いていた。
一期一振のうちの鶴丸に対するイメージは今の発言で大体察したが、鯰尾の言う通りだ。
主も居なくなって、鶴丸まで居なくなるとか洒落にならない。あの刀は三日月宗近に次いで、目を離したら何処かに消えてしまいそうな刀剣男士ランキング上位だ。
取り敢えず、縁側付近で寛いでいた刀達に鶴丸の行方を尋ねたはいいが、最後に鶴丸が会ったのは源氏兄弟だけで、二振と別れたあとは誰も鶴丸の姿を見ていないらしい。
長谷部からの報告に「え、札が!?」と思わず驚いてしまう。
薬研の発言に膝丸が指摘し、長谷部が「念の為、部屋の中を確認したが……“誰もいなかった”」と教えてくれると、安定が「入ったんだ」と小声で呟く。
胸騒ぎがして、他の刀剣男士達にも聞いてまわるがやはり誰も鶴丸を見ていない。
そんな時、政府にいた筈のこんのすけは何時の間にか帰っていて、慌てた様子で走って来た。
その場にいた全員が「何!?」と声を揃え、「もしかして……鶴丸の旦那が居なくなったのと関係あったりするのか?」と尋ねる薬研にこんのすけは「え、鶴丸様が居なくなったんですか!?」と目を見開いて聞き返す。
主だけでなく、刀剣男士の鶴丸までもが消えた。
それだけじゃない。簡単に剥がれない筈の審神者部屋の札が剥がれていた。
鯰尾の提案で、俺達は審神者部屋へと急いで走った。通りすがる刀剣男士達は何事かと驚いていたが、説明する暇は無かった。
俺がそう言ってる間に、膝丸は使われた後と思われる座布団に触れて「……座布団が暖かい。先程まで誰かいたのか?」と考え込む。
部屋を確認しに行ったと言う長谷部を見ると、「言っておくが、俺ではないぞ」と先に否定されてしまった。
安定が髭切と“一号”を見ていると、薬研が「……こんのすけ、この携帯型時空転移装置も一応調べてくれないか」とこんのすけに頼む。
こんのすけは「分かりました」と承諾した後、一号の鎖部分をくわえる形で受け取った。
膝丸に聞かれて「そーね」と静かに答え、俺は話を続けた。
安定がこんのすけを見ると、こんのすけは一号を一旦床に置いてから「はい」と返事をした。
審神者部屋から出た後、俺達は大広間に皆を集めて鶴丸が消えたことを話した。
皆はざわつくどころか、険しい表情を浮かべながらも冷静に話を聞いてくれたのだった。
らしくもなく、多少の不安に駆られてしまうが、俺はこの本丸の初期刀。主に選ばれた刀として、しっかりしなければと自分の頬を軽く叩くように両手で挟み、喝を入れた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。