第20話

十九話 三人組
1,365
2022/05/24 22:00
────────ナイトレイブンカレッジ、中廊下。
あなた
あなた
(支払える金額が手持ちにないからと断られてしまった……無理もないか)
ミステリーショップからとぼとぼと中廊下を歩いていると、見覚えのある姿が視界に入る。
長身で寒色系のアシンメトリーヘアー。見覚えは確かにあるのだが……違和感もある。
フロイド・リーチ
フロイド・リーチ
……
あなた
あなた
(ジェイド……ではなさそうだな。まさか、エース達が言っていた双子の片割れか?)
ジェイド・リーチ
ジェイド・リーチ
奇遇ですね。あなたさん
突然後ろから声を掛けられ、振り向くと、本物のジェイドがおり、隣には眼鏡を掛けた銀髪の青年が立っている。
フロイド・リーチ
フロイド・リーチ
ジェイドとアズールじゃん。店はー?
廊下の先に居たジェイドの双子の片割れがズボンのポケットに手を入れながら此方へ歩いてくる。
どんな偶然か知らんが、どうやらオクタヴィネルの三人に囲まれてしまったみたいだ。だが、丁度いい。
モストロ・ラウンジに行くまでの手間が省けた。
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
僕達は買い出しの帰りですよ。
フロイド、部活は終わったんですか?
眼鏡を掛けている青年“アズール”が聞くと、フロイドは「終わったー」と気怠げに答え、話をする。
フロイド・リーチ
フロイド・リーチ
カニちゃんから同じクラスに女子が来たって……あれ?もしかしなくても、カニちゃんが言ってた女子監督生ってさぁ……
ジェイド・リーチ
ジェイド・リーチ
ふふ。貴方の前に居る方ですよ。
ね?あなたさん
あなた
あなた
……あぁ
フロイド・リーチ
フロイド・リーチ
マジで女子じゃん。
何でジェイド達と居んの?
ジェイド・リーチ
ジェイド・リーチ
たった今、偶然出くわしただけですよ。
見ていませんでしたか?
フロイド・リーチ
フロイド・リーチ
ボーッとしてたから見てねぇ
二人共長身なので、見上げていると首を痛めそうになる。同時に、長身で双子に見える静形薙刀と巴形薙刀をふと思い出してしまった。
あなた
あなた
(雰囲気も口調も真反対だな。この双子)
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
僕はオクタヴィネル寮の寮長をしている、二年のアズール・アーシェングロットです。貴方についてはジェイドから聞いていますよ。
魔力を持たない生徒が、まさかナイトレイブンカレッジに現れるなど……最初は自分の耳を疑いましたが本当のようですね
フロイド・リーチ
フロイド・リーチ
へぇー。そーなんだ。何だか面白そーな“小エビ”ちゃんじゃん。あ、初めまして。俺フロイド・リーチっていいます。よろしく〜
あなた
あなた
小エビ……?
フロイド・リーチ
フロイド・リーチ
見た目も動作も小さいから小エビちゃん〜
あなた
あなた
(そりゃあ君は背が高いからな。小さく見えるのだろう。にしても、小エビとか仔犬とか、小鳥とか……色んなあだ名で呼ばれるな。“小”ばっかだし)
心の中でツッコミを入れていると、急にフロイドが髪に触れてくるので一瞬固まってしまった。
フロイド・リーチ
フロイド・リーチ
つーか、小エビちゃんの髪どーなってんの?光が当たるとすげぇキラキラしてめっちゃ綺麗じゃん。水みてぇ
ジェイド・リーチ
ジェイド・リーチ
フロイド。貴方の言いたいことも分かりますが、初対面で女性の髪を触るものではありませんよ
フロイド・リーチ
フロイド・リーチ
ごめんね〜小エビちゃん
ジェイドに注意されたフロイドはパッと手を離し、軽く謝罪する。
私の髪が変わっているのは自覚がある。
私の母は見た目こそ黒髪で肌は黄色と、日本人なら割といる容姿をしていたけれど、私は生まれた時から色白でこの髪色だった。
あなた
あなた
君達はオクタヴィネル寮でモストロ・ラウンジを経営しているんだったか?
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
えぇ、そうですよ。
もしや、興味がおありで?
あなた
あなた
興味、と言うか……私はこちらの世界に来て日が浅い。故に無一文状態だ。アルバイトとやらを一度もしたことが無いのだが、私にでも出来る仕事はそちらにあるだろうか?
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
表でウエイトレスとして働くのはどうですか?
あなた
あなた
ウエイトレス、か……
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
あまり乗る気では無さそうですね
ジェイド・リーチ
ジェイド・リーチ
見た所、あなたさんはお世辞にも愛想が良いとは言い難いですしね
ジェイドから笑顔でストレートに言われたが、否定はしない。プライベートで他者と話すのと接客は違う。
私は口達者な訳でも無いので、逆に不快にさせてしまうだろう。
あなた
あなた
働きたいと言っておきながら自分勝手なのは重々承知だが、裏方の仕事でやれそうなものはあるか?
これが社会で一般の仕事ならば職場内で仕事を選ぶな、嫌な仕事から逃げるなとか一喝されそうだ。でも、仕事を選べる環境に居て選択できるなら、自分にやれる仕事を選ぶに越したことはない。
フロイド・リーチ
フロイド・リーチ
皿洗いとか掃除とかならあるけど、給料はウェイターやってる奴等より低くなるよー?
あなた
あなた
構わん。ないよりマシだ
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
では、こういうのはどうですか?基本的な仕事内容は皿洗いやお店の掃除、買い出し等ですが……他にも手伝って欲しい仕事が出てくるかもしれませんし、その時は手を貸して頂けませんか?貴方の仕事ぶり次第では給料をプラスするかもしれません
あなた
あなた
(要するにパシリか?)
あなた
あなた
私に出来る範囲でなら手伝おう。
出来れば明日から始めたいのだが、可能か?
アズール・アーシェングロット
アズール・アーシェングロット
構いませんよ。では、明日の放課後にモストロ・ラウンジへ来て下さい。お待ちしております
フロイド・リーチ
フロイド・リーチ
またねぇ小エビちゃん
ジェイド・リーチ
ジェイド・リーチ
明日はよろしくお願いしますね
三人はそれだけ言うと、笑顔で去って行った。
雰囲気からして少々怪しげな三人組だし、仕事で何を任されるか不安がない訳では無いが、この世界にいる間だけのバイトだ。耐えて見せよう。
あなた
あなた
(にしても、アズールは一期一振と声が似てるな)

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