あなたがナイトレイブンカレッジに通っている間、元の世界の本丸では─────────
源氏兄弟と縁側を歩きながら話をし、膝丸の発言に僅かながら反応してしまう。
源氏兄弟の部屋の前まで行き「ではまた後でな」と言ってから、ある人の部屋に向かった。……主の部屋、審神者部屋だ。
審神者部屋はこの本丸内では神聖な場所とされ、長年共に過ごしてきた俺達でも、主の許可がなければ基本的に立ち入ることは禁止されている。それ以前に、襖には主によって結界の札がはられているので迂闊に入れない。
主らしいと言えば主らしいが。
本丸全体、審神者部屋の他にも、結界とはまた少し違う効力を持つ“札”が本丸内の一部廊下にはられているが、その札は剥がすと厄介だ。色々と……。
小さく溜息をつき、無意識に審神者部屋の襖に触れるが、何も起きないどころか襖が開いて、思わずその場で立ち尽くす。
周りを見てから「失礼するぞー」と一言誰もいない部屋に向かって声を掛け、恐る恐る審神者部屋に入る。主が起きていて審神者部屋にいる時は、わざわざ結界を使う必要がないので主の許可を貰わずに勝手に入ってはお叱りを受けたもんだ。へし切長谷部に。
主は“呪い”のせいで“不老不死”だ。
だから、何があっても死ぬことは無いはず。
でも、何処でどうなってるのかも、帰ってくるかさえも分からない、本丸内にもいない、主のいない審神者部屋に立っていると、まるで主を失った後のような虚無感に襲われる。
虚しく、切なくなるのなら部屋を出ればいいのだが……どうしてか出るのを惜しんでしまう。
俺は色んな主の元を転々としてきた。相手がどんな人間だろうと、主に使われるのは刀として当然で、それは今も変わらない。
けど、俺は歴代の主達より今の主と時を過ごしている時間が最も長い。
─────────まるで“執着”だ。
言うて主が居なくなって一、二週間だ。これが長期留守や任務などの仕事なら、ここまで不安にはならないのだが、状況が状況だ。たった数週間とは言え、主が戻ってくるのか、そもそも本当に無事なのかさえ不明。
例え主が死んでいなかったとしても、このまま本丸に帰って来れなかったらと思うと、余計不安になる。
審神者部屋を見回していると、文机の上に置いてあった主専用の携帯型時空転移装置“一号”が目に入る。
大分前に修理しても起動しなくなったから“二号”を新しく貰ったのだと主が言っていたが、壊れてもまだ傍に置いてくれるのを考えると、ふと笑みが零れた。
襖を閉めてから座布団を枕代わりにし、一号を持って俺は横になった。まるで、大事な人の帰りを待つ子供のように……。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!