第12話

十一話 審神者部屋 鶴丸視点
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2022/01/25 22:11
あなたがナイトレイブンカレッジに通っている間、元の世界の本丸では─────────
鶴丸国永(極)
鶴丸国永(極)
やれやれ……政府とこんのすけの方で調べを行っているものの、主がいないとどうも落ち着かないな
髭切(極)
髭切(極)
そうだねぇ。万が一の事態も考えて備えてはいるけど、あまり身勝手な行動は出来ないよねぇ。それこそ、大怪我なんて負ったりしたら主が居ないと手入れ出来ないし
膝丸(極)
膝丸(極)
主が不在の今、仮に時間遡行軍から襲撃を受けたとしても我々で撃退するしかあるまい。例え折れたとしても。主の強力な結界が本丸全体にはられているとは言え、主が長期に渡って“この時代”もしくは“この世界”にいないとなると、結界の力も弱まってしまう。結界が消えていないということは、主は生きているのだろうが……まぁ、あの主だしな
源氏兄弟と縁側を歩きながら話をし、膝丸の発言に僅かながら反応してしまう。
鶴丸国永(極)
鶴丸国永(極)
別の時代にとばされるのは案外、有り得ない話ではないから分かるとして……“この世界に主がいない”、か。何故そう思う?
膝丸(極)
膝丸(極)
ん?深い意味は無い。ただ、その場にいた者達の証言によれば、時空の歪とは異なる渦が現れたとのことだからな。異空間にとばされた可能性だって否定は出来ないだろう
髭切(極)
髭切(極)
言われてみればそうかもね。じゃあ、もしも現在進行形で主がその異空間の中に閉じ込められていて、目も覚めずに出られない状態あるいは状況だったら……?
鶴丸国永(極)
鶴丸国永(極)
外側から助けるにしたって、謎の渦が現れない限りはなぁ。渦がどうやったら出現するのかを調べる必要も出てくるが……渦が何故現れたのかはこんのすけ達が調べてくれてるんだもんな
膝丸(極)
膝丸(極)
やはり、こんのすけ達の調べが終わるまで待つしかないのだろうか
源氏兄弟の部屋の前まで行き「ではまた後でな」と言ってから、ある人の部屋に向かった。……主の部屋、審神者部屋だ。
審神者部屋はこの本丸内では神聖な場所とされ、長年共に過ごしてきた俺達でも、主の許可がなければ基本的に立ち入ることは禁止されている。それ以前に、襖には主によって結界の札がはられているので迂闊に入れない。
主らしいと言えば主らしいが。
本丸全体、審神者部屋の他にも、結界とはまた少し違う効力を持つ“札”が本丸内の一部廊下にはられているが、その札は剥がすと厄介だ。色々と……。
鶴丸国永(極)
鶴丸国永(極)
(主の描いた“絵”は動くからな……。
一部の廊下の壁には主の描いた絵があって札で動かないようにされてはいるものの、札を剥がせば絵が出てきてあちこち行くから元の場所に閉じ込めるのに苦労したもんだ)
小さく溜息をつき、無意識に審神者部屋の襖に触れるが、何も起きないどころか襖が開いて、思わずその場で立ち尽くす。
鶴丸国永(極)
鶴丸国永(極)
……もう結界の効力がきれたのか?
鶴丸国永(極)
鶴丸国永(極)
(結界の力が弱まっている証拠だな)
周りを見てから「失礼するぞー」と一言誰もいない部屋に向かって声を掛け、恐る恐る審神者部屋に入る。主が起きていて審神者部屋にいる時は、わざわざ結界を使う必要がないので主の許可を貰わずに勝手に入ってはお叱りを受けたもんだ。へし切長谷部に。
鶴丸国永(極)
鶴丸国永(極)
静か……だな
主は“呪い”のせいで“不老不死”だ。
だから、何があっても死ぬことは無いはず。
でも、何処でどうなってるのかも、帰ってくるかさえも分からない、本丸内にもいない、主のいない審神者部屋に立っていると、まるで主を失った後のような虚無感に襲われる。
虚しく、切なくなるのなら部屋を出ればいいのだが……どうしてか出るのを惜しんでしまう。
俺は色んな主の元を転々としてきた。相手がどんな人間だろうと、主に使われるのは刀として当然で、それは今も変わらない。
けど、俺は歴代の主達より今の主と時を過ごしている時間が最も長い。
鶴丸国永(極)
鶴丸国永(極)
(長い時を共に過していれば“愛着”だって多少は湧くものだろう。主を転々としてきた俺だって、幼い主の世話をしたりして成長を見守り、一人の人間として可愛がってきたつもりだ。けど、今の“これ”じゃあ“愛着”というよりかは……)
─────────まるで“執着”だ。
鶴丸国永(極)
鶴丸国永(極)
俺がまさか知らぬ内に“愛着”ではなく、一人の主にこんなに執着していたとはなぁ。我ながら驚きだぜ
言うて主が居なくなって一、二週間だ。これが長期留守や任務などの仕事なら、ここまで不安にはならないのだが、状況が状況だ。たった数週間とは言え、主が戻ってくるのか、そもそも本当に無事なのかさえ不明。
例え主が死んでいなかったとしても、このまま本丸に帰って来れなかったらと思うと、余計不安になる。
審神者部屋を見回していると、文机の上に置いてあった主専用の携帯型時空転移装置“一号”が目に入る。
大分前に修理しても起動しなくなったから“二号”を新しく貰ったのだと主が言っていたが、壊れてもまだ傍に置いてくれるのを考えると、ふと笑みが零れた。
鶴丸国永(極)
鶴丸国永(極)
何だか疲れたな。少し、横になるか
襖を閉めてから座布団を枕代わりにし、一号を持って俺は横になった。まるで、大事な人の帰りを待つ子供のように……。
鶴丸国永(極)
鶴丸国永(極)
……お前も一緒に主の帰りを待とうな。いっそのこと、俺が主を迎えに行ってやりたいぐらいだが

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