午後の授業の一つは飛行術で、他クラスとの合同。
グリムからジャック・ハウルやエペル・フェルミエの二人を紹介され、エースとデュースは二人と仲良さげに話していた。
箒に跨り、グリムが魔法で飛ばすが、その間どうやったら力が元に戻るのだろうかと一人で考える。
何も出来ない自身に呆れて溜息をついていると、グリムがプルプルと身体を震わせているのに気付いた
グリムが連続でくしゃみをしていると、隣に飛んできたエースが「せめて片手でおさえろよ」と注意する。
エースに言われ、グリムは不安定な状態で下に箒を移動させる。その際に今度は盛大なくしゃみをして「は〜。スッキリしたんだゾ」と笑顔を浮かべる。
しかし、気が緩んだグリムの魔力のブレによって重さがある私の方から箒ごと落下する。
落下する間に助かる方法を頭の中で巡らせ、咄嗟に体勢を立て直そうとするが、それよりも先に、下で飛んでいた誰かに受け止められた。
私とグリムはジャックとエペルに抱えられ、上で飛んでいたエースが慌てて低飛行中のジャックの傍にやって来る。
地上で待機していたデュースが声を掛け、エペルが「二人とも無事だよ」と返事する。
助かったはいいが、何時まで抱えられていればいいのだろう。ジャックは両手を離していても落ちないのだろうかと少し心配してしまう。
自分の状況を忘れてジャックをジッと見つめ分析していると、視線が合う。ジャックは気まずそうに「わ、悪い。地面におろしてやるからあとちょっと我慢しててくれ」と言いながら箒に私を座らせ、地面に着地した。
勿論私も分かっている。しかし、通常こういう場合は普通の人間ならば反射的に避けるものでは無いのだろうか。
なんなら、受け止めきれずに巻き添えになる可能性だってあったのだ。
今回のジャックの行動は、受け止められる自信と確信があったのか、咄嗟に動いたのか、はたまた両方かどうかは知らないが、礼を言わねばなるまい。
グリムの礼に「軽いな……」とデュースが呆れ気味に言い、グリムと私はバルガス先生に呼び出され、注意を受けた。注意だけで済まされて良かったが。
因みに、魔法が使えない私とモンスターのグリムは二人で一人として授業に挑むようにとクルーウェル先生に言われており、そのせいで私もバルガス先生に呼び出されたのだ。
もしも、私が死なない人間と知ったら彼等はどう思うだろうか。気味悪がられるのか、他人事だから気にしないのか、受け入れてくれるのか……。死なないのに人間と言って良いのかさえ怪しいが、私も気をつけなければ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。