オンボロ寮の前まで来ると、あることに気付き、ドアノブに伸ばす手を止めた。
私がゴミ出しに行く前、グリムには一人で大丈夫だからとモストロ・ラウンジに残ってもらっていた。けれど、それ以降姿を見ていない。
グリムが何処にいるのか考えていると、ドアが開く。私の気配を察知したのか、中から鶴丸が出てきた。
何かあった時の為に内側の胸ポケットに入れて置いた形代を取り出し、術を使うと文字が浮かび上がる。最後に息を吹きかけると、形代が折り紙のように鳥の形になり、学校の方へ消えた。
式神の形は自在に変えられる。だが今は見つかりにくい方が良いだろう。
魔の力は今は無いが、霊力だけは残っていて助かった。
手洗い等を済ませた後、夕餉の準備をする。まかないで料理が増えたのもあり、昨日よりかは腹が満たされそうだ。
他愛もない話をしながら食事を済ますと、コンコンとドアをノックする音が聞こえ、席から立ち上がって玄関の方へ向かった。
扉を開けながら「どちら様で……」と言いかけると、その言葉を遮るように聞きなれた言葉が耳に入った。
突然過ぎる客人に驚きながらも、私は彼等をオンボロ寮の中へと入れた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。