・
「」
・
その痛々しい表情に、覚悟を決める。
ゆっくりと手を離すと、祥も優しく笑って私の頭に載せた手を放す。
これで、お別れか。
その事実は数年たっているというのにまだ受け止められない。
何て頭の悪い後悔何だろうか。ほとほと実感する。
「杏。…俺、何年だって待ってるから。」
「えぇ、それ早く死ねってこと?」
「何でそうなるんだよ、ちげーよ。…何年もずっと生きて、よぼよぼのばーちゃんになってから死ねよ? 俺とのお約束だ。」
「はは、もう約束破ってる人には約束なんて言われたくないなぁ? …ま、守るし死ぬ気もないけどね。」
「そりゃあよかった。」
電車から一歩、身を引く。
祥は寂し気に眉を八の字にすると、私と同じように電車の奥に身を引いた。
忘れられない、忘れてはいけない、あの日の思い出。
それらが走馬灯のように駆け巡る。
…あれ、私は死ぬ間際じゃないのになぁ。
ほんとうに、ばかみたいに未練たらたら。これじゃ、本当にどっちが死ぬのか分かんないじゃんか。
一瞬、頭を過る。
ここで降りるふりをして、ドアが閉じる間際に電車内に飛び込んでみれば?
…そんなこと、出来るわけがない。
「祥、」
「? どうかしたか?」
「すきだよ。」
「…っは、俺もだよ。ばーか。」
その4文字は、君の生前にはなかなか言い難くてしょうがなかった言葉。
分かれ間際くらいなら、言ってやろうじゃないか。
ドアが、眼前で閉まる。
・
2月の駅は君を飲み込んだ。
涙も過去も、全部ないまぜ。
でも、それでよかった。
これで、よかった。
・
初めて、君に抱いた感情があった。
初めて、君に行った4文字があった。
初めて、君へ向けられた運命を呪った。
それでも、私は君が。
さよなら、祥。
おやすみ、いってらっしゃい。
・
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。