ふたりで庭園を歩きながら、
私は紅狼の横顔を見上げる。
目が合うと、
紅狼はふっと笑みをこぼした。
自分の耳を疑って、
言葉を紡げないでいる私に、紅狼は続ける。
(銀のお母さんも、人外に殺された。
お互いに因縁が深いのかも)
紅狼が私に向き直る。
私は紅狼の両手を握り、
その目をまっすぐに見据える。
ぷっくりと頬を膨らませると、
紅狼はふっと笑った。
優しい眼差しを向けてくる紅狼に、
胸がドキドキしだす。
(なんだろう……。
紅狼の言葉に、どうして
こんなに落ち着かなくなるの?)
自分の感情を持て余していると──。
そんな声が聞こえると同時に、
紅狼に強く抱き寄せられる。
(え……)
紅狼が私を抱きかかえたまま、
大きく後ろに飛び退いた。
とっさに目をつぶると、
紅狼が地面に着地したのを衝撃で感じる。
(父上?)
目を開けると、そこには紅狼と同じ
オオカミの耳と尻尾を持つ、
四十代くらいの男性がいた。
(この人が、紅狼のお父さん……)
鋭い目に射竦められて、
私はごくりと唾を飲み込む。
(恋……)
紅狼の真剣な顔を見ると、
また胸が高鳴ってしまう。
(紅狼、本当に私のことが好きなんだ)
紅狼のお父さんは片手を上げる。
すると、茂みから数十頭のオオカミ
たちが現れた。
抱きしめてくる腕の力が強くなるのを感じ、
私は紅狼を見上げる。
その瞳は悲しそうで、胸がチクリと痛んだ。
紅狼はいきなり、私を横抱きにする。
向けられた熱い視線に、
胸の奥からなにかが込み上げてくる。
(紅狼はあの日、私が助けた日から
ずっと私を好きでいてくれた)
(もうきっと、こんなにも自分を想ってく
れる存在は現れない)
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。