ふたりの不穏な空気に、
ハラハラしていると……。
そう助言をして背を向ける銀に、
私は声をかける。
お礼を言えば、銀は片手を上げて
去っていった。
それから、私たちは銀のお父さんの
ところへ行った。
すると、銀が事前に話しておいて
くれたらしい。
紅狼のお父さんみたいに、
いきなり分かり合うのは難しいけれど、
銀の『ふたりを信じてほしい』という言葉を
信じると言ってくれた。
こうして、一緒にいることを許された
私たちは、学校に復帰することになって……。
***
私は学校の階段の踊り場で、
紅狼に壁へ追い詰められていた。
お昼休みだけれど、踊り場には誰もいない。
そう説明しても、私の首筋をくんくんと
嗅いでいる紅狼は不満そうだ。
紅狼は私の腰を引き寄せて、
ぎゅうっと抱きしめてくる。
紅狼は私の顎を掴むと、軽く持ち上げた。
懇願するような、甘い声。
前髪をくすぐる吐息に、鼓動が加速する。
(ああ、もうダメだ。
認めざる負えないよ……)
紅狼の語尾は掠れていた。
その顔が傾いて、
私の唇に紅狼のそれが深く重なる。
(どんなに口で否定しても、
私はやっぱり紅狼に触れられたくて
たまらなかったんだ)
顔を離した紅狼は、
私の濡れた唇を親指で拭う。
恥ずかしくて、言葉尻が萎む。
熱くなる顔を俯けると、
下から紅狼に顔を覗き込まれた。
紅狼は自分の首筋を指でとんとんと、
叩いている。
(まさか、キスマークってこと?)
私は口をぱくぱくさせながら、
しばらく迷って……。
(ええいっ、どうにでもなれ!)
紅狼の首筋にキスをすると、
ためらいがちに吸った。
(うう、どのくらいの強さで吸うの?
ああっ、加減がわからないよ……っ)
唇を離せば、紅狼の首筋には
赤い痕が残っている。
そう言って、
紅狼は私の首筋に唇を押しつけた。
紅狼は至近距離で不敵に笑うと、
私の首筋にも首輪という名のキスマークをつける。
(うん、紅狼だけ……だよ。
私の身も心も満たせるのは──)
(END)
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!