あぁ……清々しい。
俺は久しぶりに晴れやかな、幸せを味わっていた。
深呼吸して、上履きを脱ぐ。
上履きを重りに遺書を置く。
あとは……
フェンスに手足掛けて、フェンスを超えるだけ。
「さよなら。ろくでもない俺の人生。」
手を掛けてフェンスを登ろうとしたが……
登れなかった。
「死ぬの??」
少女の声が聞こえた。
嘘だ。
今ここにいるのは俺一人なのに……
声をした方向を見る。
艶やかな黒い長髪。
黒曜石を連想する瞳。
紺色のセーラー服。
紺の中で、一際目立つ赤いスカーフ。
この学校で、俺と同じ学年の印でもある。
でも見たことない。
なんで見たことないか……
それは彼女の足元に理由があった……。
彼女の足元は透けていた。
「君は……??」
「私は草薙清良。ずっと前にここで死んだの。」
「じゃあ…幽霊なんだ……」
「そうだね。で……君は??」
「俺は菅谷秋人。」
「ねぇ、なんで秋人はここに来たの??」
「…終わりにしたかったから。」
「ここから飛び降りて??」
「あぁ……」
「何を終わりにしたかったの??」
「人生。クラスメイトからいじめられて、担任も親も知らんぷり。こんな透明な俺だから、飛び降りていなくなっても誰も困らない。そう思った。」
「そっか。私と同じだ……」
「私もね……。学校でイジメを受けて、誰も助けてくれなかった。親には虐待され続けて…。だから私はここで飛び降りたの。」
「……」
「でも今は後悔してる。」
「え?」
「いじめたアイツらは反省もせずのうのうと生きて、担任もアイツらも私を忘れてる。」
「もっと生きて、幸せになって復讐すれば良かった。って今では思ってる。」
「だからお願い。今死なないで……!」
「辛かったら毎日屋上へ来て……!!!」
「私が秋人の話を聞くから……!!!」
清良に逢って、死ぬのが馬鹿らしくなった。
そうだな。
清良の言う通り。
どうせ人間いつか死ぬのなら、盛大に復讐してから死んでやろう。
泣きながら訴える清良。
俺は清良と出逢えて良かった。
屋上に行ってよかった。
そう思った。
人生を終わりにする為に来たのに、生きる勇気を貰ったよ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!