前の話
一覧へ
次の話

第20話

最終話 いつかのダンスで君を想う5
553
2019/11/01 06:09
AI
No.9。2200年に到着しました
ナイン
ナイン
サンキュー、コスモ
いつもと変わらぬ東京駅。AIによるアナウンスが流れ、タイムマシンの整備士や会社の事務員らが、ホールを行き交う。
ナイン
ナイン
2200年10月21日午前11時55分。出発時刻より10分後に帰還。過去への滞在時間に関係なく、出発した直後にこの時代に戻ってくることができる。でも、やっぱりまだタイムラグがあるな。上に報告しないと
タイムトラベラーNo.9。通称ナインはアンドロイドも驚くほどの正確さで仕事をする人物だ。会議には遅刻せず、いつも決まった時間に出社し、決まった時間に退社する。彼を妬む者の中には、陰で「人間ロボット」と呼ぶ者もいるが、その顔の良さゆえ大半の女性は彼を遠巻きに眺めては黄色い歓声を上げる。
ナイン
ナイン
やあ、お疲れさま。調子はどう?
女性社員
きゃっ!ナインさん、お疲れさまです
最近の彼は以前と変わったともっぱらの噂だ。仕事ばかりで人と関ろうとはしなかったのに、コミュニケーションをとろうと自分から話しかけるようになったのだ。
ナイン
ナイン
なんだか今日は顔色が優れないようだけど
女性社員
ヒィッ……!
ナインが女性社員の顔色をよく見ようと、顎に手をかけると、彼女は悲鳴を上げ失神してしまった。「おい、レスキューアンドロイドを呼べ!」と遠くから声が聞こえる。
ナイン
ナイン
すまないことをしたね
やっぱり自分には難しいようだ。ナインはそう思った。今まで人との関わりをどれだけ持ってこなかったか。身をもって思い知らされている。もっと、円滑にコミュニケーションがとれればいいのに。例えばそう、遥か遠い昔に出会った眩しい少女のように。
ナイン
ナイン
(そういえば、あれはどういう意味だったんだろう)
ナインが2019年から帰ってきてからずっと考えてきたことがある。あれから数ヶ月経ったが、まだ謎は解けないままだ。
ナイン
ナイン
(未来でわたしを探して。たしか君はそう言ったんだよね)
ナイン
ナイン
(君は俺が未来から来たってことに薄々勘づいていたんだよね)
ナイン
ナイン
(レイジもこちらに戻ってくる気配はないし。君の言葉の謎は解けないままだよ)
2200年になんて生きているはずはないのだ。たとえ、病気でなかったとしても。一応、この時代の図書館に行って彼女の名前を探してみたが、どこにも見当たらなかった。歴史上に残る人物ではなかったのだ。
ナイン
ナイン
(でもなんだか不思議だね。君はナポレオンでもなければ、エジソンでもない。俺が調べるべき歴史上のどの偉人よりも、俺の心に住みついているんだから)
東京駅の時計台が鳴った。誰かがタイムトラベルをしたのだ。見送ろうとゲートに近づくと、妙な既視感を覚えた。
ナイン
ナイン
(なんだろう……あれは……)
時計台で踊るブリキの人形。いつの時代にできた物かもわからず今にも壊れそうだ。あんな薄汚れた時計台は壊してしまおうという意見もある中、ずっと残り続けている。
ナイン
ナイン
(ああ、このダンスは……そうだ……)
聞き覚えのあるメロディ。きっと、百数年の間、その時代その時代に合わせて曲調をアレンジしてきたのだろう。元々の曲とは少し違っていた。

しかし、ブリキ人形が踊っているダンスはそのままだった。何十回も、ナインが見てきたダンスだった。振り付けはこうしよう、フォーメーションはこうしよう、とほたる達が練りに練ったダンスがそのまま踊られていた。
ナイン
ナイン
(やっと、見つけた……)
ナイン
ナイン
(コンテストで優勝できたんだね。君の夢はこうして叶ったんだ)
ナイン
ナイン
(立ち上がることすら辛い日もあっただろうに、よく頑張ったね)
アンドロイドや人の行き交う駅の真ん中で、膝から崩れ落ちて泣いている1人の青年を、皆は遠巻きに眺めていた。

プリ小説オーディオドラマ