第13話

第13話 青春をやり直しませんか3
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2019/09/13 06:09
ナイン
ナイン
あの子の親はどうしているんだ
救急車を呼んだナインとレイジは、集中治療室に運ばれたほたるを待ち、病院の待合室でうなだれていた。
レイジ
レイジ
はっ、そんなことも知らないのかよ。ほたるの親は娘の病気を治すために朝から晩まで働きづめなんだよ。莫大な治療費がかかるからな
ナイン
ナイン
お兄さんは?
レイジ
レイジ
医者になるために勉強中だよ
ナイン
ナイン
そうか……
レイジ
レイジ
家族はそれぞれほたるを守るために必死なんだ。でもその必死さがあの子を孤独にしている。皮肉だよな
ナイン
ナイン
こんな時に言うことじゃないが、そっちのしゃべり方のほうがいいぞ
レイジ
レイジ
余計なお世話だよ!
ナイン
ナイン
(いつも誰にでも愛想を振りまいて、ふざけたようなしゃべり方をしているのに。好きな子のために必死なんだな)
ナイン
ナイン
ひとつ、質問いいか
レイジ
レイジ
なんだよ
ナイン
ナイン
どうして高校生の姿でいられるんだ。本当は俺より年上のはずだろう
レイジ
レイジ
だったら敬語使えよ、ばーか
ナイン
ナイン
あ、すいません
レイジ
レイジ
今さらいいよ。きもい
レイジ
レイジ
僕はあの天才タイムトラベラーNo.0だよ。変装なんてお手の物だよ。元々、童顔だったしね
記憶の奥底に眠るゼロ。まともに顔を見たことがなかったが、行く時代に合わせて変幻自在に姿を変えたという。
レイジ
レイジ
おまえのナンバーは何番なんだよ?山田太郎なんて白々しい偽名使いやがって。僕が教育担当だったら、もっといい名前付けてやれたのに
ナイン
ナイン
俺はナイン。No.9。例えばどんな名前を付けてくれるのかな
レイジ
レイジ
う〜んと……、しらとり……白鳥拓也とか?ムカつくぐらいイケメンだしな。ホストみたいな名前がお似合いだぜ
ナイン
ナイン
ほ……す……と……?
レイジ
レイジ
うわ〜、マジかよ
ナイン
ナイン
(なんだかこんなふうに同性と話したのは久しぶりだ。病院だというのに、ちょっと嬉しいと思ってしまうのは不謹慎かな)
レイジ
レイジ
おい、なに1人でにやにやしてんだよ
ナイン
ナイン
いや、別に
レイジ
レイジ
腹立つな〜
レイジ
レイジ
なんだか不思議だよな。ここでこうやってあの子の治療が終わるのを待っているのが未来から来た僕達で、あの子の家族じゃないんだ
ナイン
ナイン
うん。それは俺も同じことを考えていたよ
レイジ
レイジ
はぁ〜。本当、腹立つな〜
ほたるの家族が駆けつけるまでずっと、ナインはレイジとたわいもない話をして気を紛らわせていた。そうしないと、不安で押しつぶされてしまいそうだったから。

1人じゃなくてよかった。悪態を吐きながらも、お互いにそう思っているのが伝わってきた。

ほたるが退院できたのはそれから数日後のことだった。予想よりもずいぶんと早い復帰にダンス部の面々とナインは驚いた。
ほたる
ほたる
決勝戦までの時間を無駄にしたくないからね
彼女はそう言って、いつもと変わらない眩しいほどの笑顔を向けた。
ほたる
ほたる
絶対に優勝してやるんだから
彼女のその強さは、真夏に輝く蛍の光のように、甘酸っぱい夏の思い出をともなうような、そんな印象をみんなに残したのだった。

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