ほたるは残念そうに頬を膨らませた。
先程、本棚の整理をしていた時に見つけたペンライト。たしか、この時代の人間が戦で使用すると聞いている。ただの光る棒だ。どんな役に立つシロモノかは定かではないが、遠くにいる相手への合図には使える。
足元に転がっていたもう1本のペンライトをふんずけ、ナインはよろけた。その拍子にほたるを押し倒してしまう。
ほたるはナインの首に両手をかけて、離そうとしない。至近距離で見るほたるの瞳がちらちらと光る。ハリのある肌に、ふっくらとした唇。目のやり場に困ってしまう。
ようやくほたるは解放してくれた。ナインはため息を吐く。
ナインはほたるが戸締りをしたことを確認すると、そこからそう遠くない公園へ向かった。昼間、高校からここまで来る時に通った道沿いにある公園だ。ビジネスホテルに泊まるなんて真っ赤な嘘。この時代に戸籍のないナインはなるべく、この時代にいたという痕跡を残してはならないのだ。本当だったら、髪の毛一本たりとも落としたくはないが、残念ながらそこまで未来の技術は進歩していない。そういえば、大学時代の同級生は大学院に進み、「証拠隠滅装置」の発明を手伝っていたっけ。
そんなことを考えながら、ナインは野宿をする準備を始めた。
ポケットから取り出して見るも、画面には「エラー」の文字。
レイジはくるりと背を向けると、軽快なステップを踏むかのような足取りで帰っていった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。