第7話

第7話 始まりは未来から7
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2019/08/02 06:09
ほたる
ほたる
1人じゃさみしいから、一緒にいてほしいな〜って思ったんだけど、ダメ?
ナイン
ナイン
いや、ダメだろ
ほたる
ほたる
まぁ、そうだよね
ほたるは残念そうに頬を膨らませた。
ほたる
ほたる
山田さんがいてくれたら、元気になれたんだけどな〜。なんてね
ナイン
ナイン
俺だったからいいものを。他の男にそんなこと言うんじゃないぞ
ナイン
ナイン
(とはいえ、やっぱり心配だな)
ナイン
ナイン
そうだ、もし万が一具合が悪くなったらこのペンライトを外から見えるように振ってくれ。俺、実は今出張中でこの近くのビジネスホテルに泊まってるんだが、そこから見張っているから
先程、本棚の整理をしていた時に見つけたペンライト。たしか、この時代の人間が戦で使用すると聞いている。ただの光る棒だ。どんな役に立つシロモノかは定かではないが、遠くにいる相手への合図には使える。
ほたる
ほたる
わかった!それなら安心だね。山田さんって見かけによらず優しいよね
ナイン
ナイン
見かけによらず?
ほたる
ほたる
だって、ずっとすましてるし。びっくりするぐらいのイケメンだから、わたしみたいな子供相手にしてくれないと思って
ナイン
ナイン
……
ほたる
ほたる
えっ?ちょっと、なに?赤くなってるじゃん。山田さん、照れてるの?かわいい〜
ナイン
ナイン
もう、帰る!!
ナイン
ナイン
わっ!
足元に転がっていたもう1本のペンライトをふんずけ、ナインはよろけた。その拍子にほたるを押し倒してしまう。
ほたる
ほたる
床ドン?
ナイン
ナイン
ち、違っ……!
ナイン
ナイン
ちょっ、首、離せ……!
ほたる
ほたる
えへへ
ほたるはナインの首に両手をかけて、離そうとしない。至近距離で見るほたるの瞳がちらちらと光る。ハリのある肌に、ふっくらとした唇。目のやり場に困ってしまう。
ほたる
ほたる
山田さん、着痩せするタイプだね。首ががっしりしてる。ブレイクダンスに向いていそう……
ナイン
ナイン
ダンスのことはいいから……!大人をからかうのもいい加減にしなさい!
ほたる
ほたる
そんな怒んないで。かわいいな、もぉ〜
ようやくほたるは解放してくれた。ナインはため息を吐く。
ナイン
ナイン
それじゃあ、俺はもう行くからね。何かあったら、ペンライトを振ること。いいね?
ほたる
ほたる
はぁ〜い!
ナイン
ナイン
(まったく……、どこまでわかってるんだか)
ナインはほたるが戸締りをしたことを確認すると、そこからそう遠くない公園へ向かった。昼間、高校からここまで来る時に通った道沿いにある公園だ。ビジネスホテルに泊まるなんて真っ赤な嘘。この時代に戸籍のないナインはなるべく、この時代にいたという痕跡を残してはならないのだ。本当だったら、髪の毛一本たりとも落としたくはないが、残念ながらそこまで未来の技術は進歩していない。そういえば、大学時代の同級生は大学院に進み、「証拠隠滅装置」の発明を手伝っていたっけ。

そんなことを考えながら、ナインは野宿をする準備を始めた。
アラーム
ピーピーピー!!
ナイン
ナイン
(また、探査器が作動した。ここで野宿をしてはいけないということだろうか)
ポケットから取り出して見るも、画面には「エラー」の文字。
ナイン
ナイン
(またか……。通常だったら、理由が表示されるのに。壊れているのか?)
レイジ
レイジ
あのさ、うるさいんだけど
ナイン
ナイン
!?
レイジ
レイジ
ピーピーピーピー、なんだか知らないけど、近所迷惑です〜
ナイン
ナイン
すまなかった
レイジ
レイジ
はっ、別に真面目に謝られても……
レイジ
レイジ
ところで山田太郎さん。こんなところで何してるの?
ナイン
ナイン
えっと……、泊まるホテルの経路を検索していてね。出張でこの街に初めて来たんだけど、道に迷ってしまって
レイジ
レイジ
なんていう名前のホテル?僕が案内してあげるよ
ナイン
ナイン
心遣いは嬉しいけど、高校生は早く家に帰らないと……
レイジ
レイジ
大丈夫!僕の家、門限ないから
レイジ
レイジ
お姉ちゃん達にはわりと厳しい親だけど、末っ子の僕には甘いから
レイジ
レイジ
それで、なんていう名前のホテル?
ナイン
ナイン
ええと……、なんだったかな。ちょっと、確かめてみるね
レイジ
レイジ
そんなこと言って、本当はホテルの予約なんて取ってないんじゃないの?
レイジ
レイジ
山田太郎さん、ほたるのストーカーじゃないの?
ナイン
ナイン
そうじゃないよ
レイジ
レイジ
あっはっはっ〜!そんな怖い顔しないでよ。ちょっとからかってみただけじゃん
レイジ
レイジ
でも、ほたるにつきまとうのはやめてね。僕の大事なダンス部のメンバーなんだから
ナイン
ナイン
うん、彼女を傷つけるような真似はしないよ。約束する
レイジ
レイジ
ありがとう
レイジはくるりと背を向けると、軽快なステップを踏むかのような足取りで帰っていった。

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