ピンポーンとチャイムが鳴って、続いてほたるのスマートフォンが揺れた。
スピーカーにしなくても、レイジの甲高い声は少し離れた位置に座るナインの耳にも届いていた。
ほたるはベッドから立ち上がると、ピョンッと1回飛び跳ねて見せ、階段を下りていった。
階下から、ほたるらの話し声が聞こえる。友達とたわいもない会話をしたのはいつだったか。ふと、ナインは思い返してみた。あの人がエリートの先輩よ。自分ではない誰かと誰かが話している会話が耳に入る。そんな経験ならしょちゅうある。もっと君と話がしたい。そんなふうに言われたのはいつが最後だろう。
ダンス部の2人が帰りほたるは部屋に戻ってきたが、やっぱりどこか顔色が悪い。両親が帰らないなら誰かのつきそいが必要だろう。だがしかし、男の自分がいたらまずいだろう。ナインは頭を悩ませた。
初めて、解けない難問にぶち当たった気がした。
手持ち無沙汰な気分をしずめようと、無造作に置かれている本を本棚の空いているスペースへ差しこんでいく。タイトル順でも、作者名順でもいい。こうやって秩序が保たれている状態は落ち着く。
驚きのあまり、ナインは持っていた本を床にぶちまけてしまった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!