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第1話

第1話 始まりは未来から1
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2019/06/21 06:09
10時を告げる東京駅の鐘が鳴った。
AI
2200年から2019年へタイムトラベルする局員は至急ゲートへ……
ナイン
ナイン
そろそろ時間か
ベンチから腰を上げ、スーツの男は黒い手袋をはめた。

無機質なアンドロイドがホールを行き来する中、男はまっすぐにゲートへと向かう。
AI
タイムトラベラー、No.9。認証いたしました
ナイン
ナイン
サンキュー、コスモ
AI
どういたしまして
AIによる生体認証を通過し、タイムトラベラーNo.9、通称“ナイン”は時計台の下に立った。
AI
準備はよろしいでしょうか
ナイン
ナイン
オッケー
片手を上げて、ナインはにっこりと微笑んだ。本人は自覚していないことだが、この微笑みで幾人もの女性が小さな悲鳴を上げてきた。しかし、AIはAIであるがゆえ、彼のプリンス的スマイルをものともしない。
AI
それでは出発します
時計台が音を立てて動きだす。壁も床も白い中、この時計台だけクラシカルな雰囲気を残している。

かつては赤レンガの外観をしていた東京駅。今ではすっかり様変わりしていた。タイムトラベルの発着地点となっている東京駅は、部外者の侵入防止やクリーンな状態を保つ目的のため、壁や床、天井までも白色で統一されていた。高セキュリティシステムを売りにしている会社の設備が、全て白色で塗られているせいだ。

東京駅は世界でも指折りの防犯設備で守られている場所だった。

時計台の人形がぎこちない動きで踊る。そしてオルゴールの音楽。ここでしか聴いたことのないメロディだが、どこか懐かしい気持ちになる。
AI
ハブ ア グッド タイムトラベル
AIの言葉を最後に、ナインは光の渦に包まれていった。
ナイン
ナイン
ここが2019年……
ナイン
ナイン
タイムトラベラーとして、これまで数え切れないほど過去に飛んできたけど、この時代は初めてだな
ナイン
ナイン
たしか、初代タイムトラベラーが行方不明になった時代……。俺もトラブルに巻き込まれないように気をつけなきゃ
ナイン
ナイン
草木があって、地面は土か……。屋外だな……。
今現在の時刻は、ええと……
カラス
カーカーカー!
ナイン
ナイン
うわぁぁぁぁぁ!
ほたる
ほたる
やめなさーい!!
突然、真っ黒な姿をした鳥に襲われたナインだったが、どこかから駆けつけてきた女の子がバッグを振り回して追い払ってくれた。
ほたる
ほたる
大丈夫ですか?
ナイン
ナイン
ああ、ありがとう……
ほたる
ほたる
わっ!お兄さん、けがしてる!!
ナイン
ナイン
ただのかすり傷だよ
ほたる
ほたる
カラスにつっつかれたんでしょ?病院で診てもらったほうがいいよ!
ナイン
ナイン
うん、心配してくれてありがとう。あとで行くよ
ナイン
ナイン
(2200年から持ってきた薬があるから、あとで塗っておこう)
ほたる
ほたる
えー、お兄さん絶対行かないでしょう。だって仕事できる風だもん。『会社休めない』とか言って、行かないでしょ。そうだ、うちの高校の保健室に来なよ。先生優しいから、簡単な手当てだったらしてくれるかも
ナイン
ナイン
(すごいマシンガントーク……)
ナイン
ナイン
いや、大丈夫だから……
ほたる
ほたる
いいから、いいから♪
ナイン
ナイン
ちょっと……
突然現れた女の子の手を振り払えず、ナインは久しく踏んでいなかった土の地面を走った。

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