第3話

第3話 始まりは未来から3
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2019/07/05 06:09
ナインの手にすっぽりと収まるほどの大きさをしたタブレット端末。万が一、この時代の人間に見られても不審がられないよう、この時代に製造されたスマートフォンと同じような形体をしている。

2200年に伝わる史実とは違う出来事があった際に鳴るように設定されている探査器だが、この部屋に入ってきた時には作動しなかったため、この部屋に置いてある物は史実通りのはず。この地域周辺には歴史に名が残るような人物はいないと聞いている。

となると、未来から来たナインがこの時代の人間に干渉しすぎたために鳴ったというのが理由だろう。
レイジ
レイジ
もぉ〜、ほたる全然来ないから捜しちゃったじゃん。クラスの女子に聞いても、知らないって言うし
レイジ
レイジ
そっちのお兄さんは誰?この学校の先生じゃないよね
ほたる
ほたる
あっ、レイジ。練習遅れてごめんね。
さっきたまたま拾ったんだ
レイジ
レイジ
ええー、お兄さん捨て犬だったの?かわいそ〜
ナイン
ナイン
犬でもないし、捨てられてもいないよ。本当にそろそろ失礼するね
ナイン
ナイン
(今まで成績優秀でやってきたのに、情けない)
自分の不甲斐なさから、タイムトラベラーでもない人物の前で探査器を鳴らしてしまった。ナインは一刻も早くこの場を立ち去りたかった。
ほたる
ほたる
あ、ちょっとお兄さん、タダで済ませようと思っているでしょう
ほたる
ほたる
治療費ちゃんと払っていってください
ナイン
ナイン
ええ……
この時代のお金を持ってきてはいる。ただ、医療従事者でもなさそうな子にちょっと消毒をしてもらったぐらいで、お金を払わなければならないのだろうか。
レイジ
レイジ
お兄さん、お金持ってなさそうだよ
ほたる
ほたる
困ったな〜
ほたる
ほたる
あ、そうだ!じゃあ、代わりにわたし達の練習見ていってもらおうよ
レイジ
レイジ
ナイスアイディアだね!うんうん、そうしよう
ナインは、ほたるという名前らしい少女とレイジと呼ばれていた少年に片方ずつ腕をつかまれて連行され、保健室を後にした。

廊下を進み、自分より年下の子達とすれ違う。
ナイン
ナイン
(この時代の学校の生徒は制服を着ていることが多いと聞いたけど、ここの子達は私服が多いな。進学校か)
ほたる
ほたる
ダンス部員ほたる、ただいま参上しました!
コタロー
コタロー
ほたるさん、遅刻ですよ
シキミ
シキミ
ったくよ、コンビニ行くっつって、どんだけ時間かかってんだよ
ほたる
ほたる
ごめんごめん〜!
レイジ
レイジ
もう、シキミってば怖い。部長がそんなんだから、部員増えないんだぞ
シキミ
シキミ
俺が怖いってだけで入らねぇやつは、もとからやる気がねぇ。そんなやつはこの部にはいらねぇんだよ
レイジ
レイジ
もぉ〜
ナイン
ナイン
(ダンス部ってことは、俺はこれからダンスを見せられるのか。過去に来てまでダンス、ね……)
ナインの時代ではスポーツや演劇、ダンスなどは生身の人間がするものではなく、主にアンドロイドや画面に映されたCGが行うものだった。
ナイン
ナイン
(俺は仕事上、毎日筋トレはしているし、いざという時の護身術ぐらいは身に付けてはいるが。肉体労働なんて低所得者でも珍しいぞ)
ナイン
ナイン
(はぁ……、生身の人間が踊ってもおもしろいものだろうか)
シキミ
シキミ
んで?そいつはどこのどいつだよ
コタロー
コタロー
新しいダンスのコーチってわけでもなさそうですね
レイジ
レイジ
コタローの言う通りダンスのコーチだったら良かったんだけど、
ほたる
ほたる
さっきそこで拾ったイケメンさんだよ。わたし達のダンスが見たいんだってさ
シキミ
シキミ
ああ?そうなのか。だったら、早くそう言えよ。まったく……。そうか、俺らのダンスが見たいってか
レイジ
レイジ
シキミ嬉しそ〜
シキミ
シキミ
うるせぇ、レイジ。ごたごた言ってねぇで、さっさと曲かけろや
レイジ
レイジ
オッケー!ミュージックスタート!
こうしてナインは望んでもいないダンスを見る羽目になった。

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