いつもの公園の透明テントの中。深夜2時を回る頃には、さすがのナインも寝息を立てていた。
このテントは透明だ。この時代の人々からは見えない仕掛けになっているし、誰かが通りがかってもすり抜けてしまう。
しかし、そんなテントに一歩、また一歩と近づいてくる者がいた。訓練されたような静かな足取り。相手に気づかれるかも知れないという不安もなさそうに、公園の入り口から一直線にテントへと向かう。
寝返りを打つナインの横で、テントに侵入した人物は荷物をあさっていた。
タイムトラベラーNo.0。ナインの大先輩にあたる人物だ。初代タイムトラベラーとして活躍し、世間を驚かせた。歴史を遡ったら二度と戻ってくることができなくなるんじゃないか。タイムマシン発明当初はそんな不安が囁かれ、タイムトラベラー候補がなかなか上がらなかった。そんな中、難なく任務を遂行し、子供だけではなく大人にまでも夢を与えていた。
ナインもそのうちの一人だ。彼がタイムトラベラーとして数々の任務をこなしている姿を見て、タイムトラベラー登用試験に臨んだのだった。
そんな彼が、なぜここにいるのだろう。
人通りのない夜道を走る2人の足音が響く。
息を切らしながらほたるの家に近づくと、2階の窓辺からペンライトの光が微かに揺れているのが見えた。
ナインは壁沿いのパイプをよじ登って、いとも簡単に2階の窓に両手を掛けた。
窓をノックすると鍵が開いた。
ほっとした表情を見せ、ほたるは意識を失った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。