第12話

第12話 青春をやり直しませんか2
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2019/09/06 06:09
いつもの公園の透明テントの中。深夜2時を回る頃には、さすがのナインも寝息を立てていた。

このテントは透明だ。この時代の人々からは見えない仕掛けになっているし、誰かが通りがかってもすり抜けてしまう。

しかし、そんなテントに一歩、また一歩と近づいてくる者がいた。訓練されたような静かな足取り。相手に気づかれるかも知れないという不安もなさそうに、公園の入り口から一直線にテントへと向かう。
ナイン
ナイン
んん……
寝返りを打つナインの横で、テントに侵入した人物は荷物をあさっていた。
謎の人物
(ない、どこにあるんだ……)
謎の人物
(きっとあるはずなんだ。あの子を助けられる薬が……!)
ナイン
ナイン
君、こんな夜更けに何の用だい
謎の人物
……!!
ナイン
ナイン
どうやって入ったか知らないけど、高校生がこんな時間に出歩いてちゃダメじゃないか
レイジ
レイジ
離せ!
レイジ
レイジ
薬はどこにあるんだよ
ナイン
ナイン
……?
レイジ
レイジ
ほたるを助けられる薬だよ!未来から持ってきているんだろう?
ナイン
ナイン
君は一体……
レイジ
レイジ
ははっ!そんなことも推理できないのか。僕は探査器の音ですぐに気づいたけどね。タイムトラベラーはみんな、頭が良いはずだろう。初代の僕みたいにね!
ナイン
ナイン
君はひょっとして……
ナイン
ナイン
失踪したゼロ!?
タイムトラベラーNo.0。ナインの大先輩にあたる人物だ。初代タイムトラベラーとして活躍し、世間を驚かせた。歴史を遡ったら二度と戻ってくることができなくなるんじゃないか。タイムマシン発明当初はそんな不安が囁かれ、タイムトラベラー候補がなかなか上がらなかった。そんな中、難なく任務を遂行し、子供だけではなく大人にまでも夢を与えていた。

ナインもそのうちの一人だ。彼がタイムトラベラーとして数々の任務をこなしている姿を見て、タイムトラベラー登用試験に臨んだのだった。

そんな彼が、なぜここにいるのだろう。
レイジ
レイジ
僕はある女の子に恋をしたんだ。だから、この時代に留まったのさ
ナイン
ナイン
ほたるのことか
ナイン
ナイン
悪いけど、薬はここにはないよ。俺はこの時代に持ってきていない
レイジ
レイジ
なんでだよ?あの子のことなんとも思わないのかよ。ほたるがおまえを気に入っているのが最初は嫌だった。でも、利用してやろうと思ったんだ。ほたるに情が移るようにね!おまえがあの子と2人きりでいるのは辛かったけど、それでもあの子が助かるならって我慢していたのに……。おまえだって、あの子を助けたいだろう
ナイン
ナイン
ああ、助けたいさ。でも、それは規則違反だ。歴史を変えてしまう
レイジ
レイジ
おまえが言える立場かよ!何が歴史を守るだ。もうあの子に十分関わりすぎているじゃないか
ナイン
ナイン
ああ、そうだね。その通りさ……
レイジ
レイジ
ほらね!だったら薬を未来から持ってこい
ナイン
ナイン
それはできない
レイジ
レイジ
どうして!
アラーム
ピーピーピーピー
レイジ
レイジ
クソッ。いまいましいアラームだな。僕のこと、歴史のバグだって言いたいのか
ナイン
ナイン
いや、これは探査器の音じゃない。ほたるのペンライトに付けておいた発信器だ
レイジ
レイジ
おまえ、本当にストーカーなのか
ナイン
ナイン
ほたるが危険だ。助けに行かないと
レイジ
レイジ
おい、ちょっと待て。僕も行く!
人通りのない夜道を走る2人の足音が響く。

息を切らしながらほたるの家に近づくと、2階の窓辺からペンライトの光が微かに揺れているのが見えた。
レイジ
レイジ
どうやって入るんだよ
ナイン
ナイン
こういう時のために、先輩も鍛えているだろ
ナイン
ナイン
よっと
ナインは壁沿いのパイプをよじ登って、いとも簡単に2階の窓に両手を掛けた。
レイジ
レイジ
うえ〜、化け物かよ
ナイン
ナイン
コンコンッ
窓をノックすると鍵が開いた。
ナイン
ナイン
大丈夫かい
ほたる
ほたる
本当に来てくれた……
ほっとした表情を見せ、ほたるは意識を失った。

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