2200年から持ってきたテントは周りからは見えない。透明になる機能を搭載しているおかげで、こちらの存在を知られることなく野宿することができるのだ。そして、冷暖房設備も完璧。北極でも南国でも快適に過ごせる作りになっている。
一晩中起きてほたるの家の窓を眺めているわけにもいかないため、ペンライトに細工をしておいたのだ。
ナインは2200年から持ってきた栄養補給タブレットで朝食をすませると、テントをしまって公園を後にした。高校生とたわむれたり公園で野宿したりするために、わざわざ未来からやってきたわけではない。この時代の日本の歴史が史実通りか確かめるために来たのだ。主な調査内容は、歴史上に残る有名な人物の消息確認、この時代にあったとされる物が実在するかどうか。2200年には絶滅している動植物の確認も怠ってはならない。ナインの目で捉えきれない物も、探査器があればアラームで教えてくれる。
簡単にいうと、とにかく歩いていればいいのだ。
調べ物に役立つのはいつだって図書館やインターネットといった、大量の情報が保管されているデータベースだ。2200年では、国会図書館に保管されていた全ての紙の本がデータ化され瞬時に検索できるようになっている。それよりも百数十年さかのぼった今の時代で調べ物をするのは、未来人のナインにとっては骨の折れる仕事だが、革命時代のヴェルサイユ宮殿でスパイ活動をしていた頃に比べればだいぶマシだ。
電車に乗って国会図書館へ向かった。防犯カメラに自身の姿が映りこんでしまうのは仕方がない。都内は特に人が多すぎて、ありふれたスーツを着た若者が歩いていたところで、どこの誰かなんて誰も気にしちゃいない。
テクノロジーの進んでいる2200年にも変わらず、神社はその場所にしんとたたずんでいた。
大きな鳥居をくぐる前に一礼。砂利の敷き詰められた参道を歩くと、じゃりじゃりと音が鳴り耳に心地よい。手水舎で手と口を清め、本殿へ。お賽銭を入れて鈴を鳴らし、二礼二拍手。この作法は今も未来も変わっていない。
ナインはお願いごとを一生懸命するのに夢中で、最後の一礼を忘れてスタスタと来た道を戻っていった。
スーツを着たイケメンさんが必死な表情でお参りしていった。境内を掃除していたお手伝いのトメさんがお昼休憩中、皆に話すとも知らず、ナインは颯爽と図書館へ向かったのであった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。