第18話

第18話 いつかのダンスで君を想う3
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2019/10/18 06:09
ほたる
ほたる
わたしがいなくて寂しかったでしょう
シキミ
シキミ
さみしいなんてもんじゃねぇぞ、ばか!
ほたる
ほたる
えへへ〜
「もう大丈夫なんだろうな」。シキミがそう言いたそうなのは明らかだった。でも、彼はそれを口にはしなかった。答えを知るのが怖かったからだ。
シキミ
シキミ
俺達、おまえがいなくてもめちゃくちゃ練習したんだぜ。見せてやるよ、俺らのダンス。びっくりして腰抜かすぜ
ほたる
ほたる
うん!楽しみ!
コタロー
コタロー
はぁ、今授業終わりました。……って、えっ!ほたるさん!?
ほたる
ほたる
久しぶり、コタロー。元気してた?
コタロー
コタロー
俺のことなんていいんですよ。会いたかったです
シキミ
シキミ
おい、コタロー。今日はやけに素直じゃねぇか
コタロー
コタロー
1人でこっそり泣いていたこと、バラしてあげてもいいんですよ
シキミ
シキミ
て、てめぇ……!
ほたる
ほたる
あはは!
レイジ
レイジ
さぁさぁ、踊ろうよ!
ナイン
ナイン
俺が曲かけるね
レイジ、シキミ、コタローが立ち位置に着くと、ナインはコンポの再生ボタンを押した。今回は珍しくほたるも観客側だ。小さくリズムを数えながら、手拍子を打つ。

3人のダンスは見事だった。レイジの軽やかなステップ。シキミはやっぱり、踊り方に勢いがある。大人しそうな見た目とは裏腹の、コタローのブレイクダンスには毎回驚かされる。

ただ、これは4人で踊ることを想定して作られたダンスだ。ほたるの立ち位置だけぽっかりと穴が空いている。「早く戻ってこいよ。俺達はいつでもおまえを待っている」。そう言っているかのようだ。

曲が終わると、ほたるは盛大な拍手を3人に送った。ナインもつられて、いつもより長い拍手を送る。何よりも、彼女が隣にいることが嬉しかった。
ナイン
ナイン
(また、君の踊る姿を見ることができるね)
それがとても嬉しい。

数日間、ほたるの様子を見ていたが、時折足元をふらつかせるも、彼女は気丈に振る舞っていた。親御さんから「好きに生きさせてあげたい」と部員達には伝わっていたため、皆あまり心配する素振りを見せないようにした。

ナインの任務も終わりを迎えていた。いつまでもこの時代にいるわけにはいかなかった。

出張期間が終わるとメンバー達に伝えると、お別れ会を開いてくれた。場所はいつものファーストフード店だ。ワンコインで買える飲み物とハンバーガーをテーブルに並べ、時間が経つのも忘れて話した。

ひとつ心残りがあるとすれば、やっぱりほたるのことだ。せめて、コンテストの最終審査を見届けてから帰りたかった。

そう言ったら、
ほたる
ほたる
わたしは仕事熱心で真面目な山田さんが好きなんですよ
と返されてしまった。年下の女の子にからかわれてしまうなんて、自分もまだまだだな。笑いながらナインは首を振った。

最終日はリズムホリックの練習を覗いてから帰ることにした。
レイジ
レイジ
また明日も来るんでしょ〜
なんて、レイジがいつものようにふざけたことを言った。
シキミ
シキミ
いつでもお待ちしていますよ
コタロー
コタロー
今度会った時は勉強を教えてくださいね
ナイン
ナイン
うん、今までありがとう。君達のおかげで楽しいひと時を過ごすことができたよ
ナインは思い出の詰まった練習室をあとにした。

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