「もう大丈夫なんだろうな」。シキミがそう言いたそうなのは明らかだった。でも、彼はそれを口にはしなかった。答えを知るのが怖かったからだ。
レイジ、シキミ、コタローが立ち位置に着くと、ナインはコンポの再生ボタンを押した。今回は珍しくほたるも観客側だ。小さくリズムを数えながら、手拍子を打つ。
3人のダンスは見事だった。レイジの軽やかなステップ。シキミはやっぱり、踊り方に勢いがある。大人しそうな見た目とは裏腹の、コタローのブレイクダンスには毎回驚かされる。
ただ、これは4人で踊ることを想定して作られたダンスだ。ほたるの立ち位置だけぽっかりと穴が空いている。「早く戻ってこいよ。俺達はいつでもおまえを待っている」。そう言っているかのようだ。
曲が終わると、ほたるは盛大な拍手を3人に送った。ナインもつられて、いつもより長い拍手を送る。何よりも、彼女が隣にいることが嬉しかった。
それがとても嬉しい。
数日間、ほたるの様子を見ていたが、時折足元をふらつかせるも、彼女は気丈に振る舞っていた。親御さんから「好きに生きさせてあげたい」と部員達には伝わっていたため、皆あまり心配する素振りを見せないようにした。
ナインの任務も終わりを迎えていた。いつまでもこの時代にいるわけにはいかなかった。
出張期間が終わるとメンバー達に伝えると、お別れ会を開いてくれた。場所はいつものファーストフード店だ。ワンコインで買える飲み物とハンバーガーをテーブルに並べ、時間が経つのも忘れて話した。
ひとつ心残りがあるとすれば、やっぱりほたるのことだ。せめて、コンテストの最終審査を見届けてから帰りたかった。
そう言ったら、
と返されてしまった。年下の女の子にからかわれてしまうなんて、自分もまだまだだな。笑いながらナインは首を振った。
最終日はリズムホリックの練習を覗いてから帰ることにした。
なんて、レイジがいつものようにふざけたことを言った。
ナインは思い出の詰まった練習室をあとにした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。