午後3時過ぎ、ナインはその日の報告を登録した。装着した手袋には最先端の機能が搭載されており、空中に画面を表示させて2200年と通信することができるのだ。
画面を閉じると、高校へ向かった。ほたる達と過ごす時間を作るため、朝早くから活動し、夕方前には仕事を終えられるようにしているのだ。
日本各地を順々に巡っていった方が効率も良いし、移動時間が少なくて済む。
ほたるに連れられ、階段を駆け上がる。屋上へと続く階段は少しほこりっぽく、2人が通ると舞い上がった塵が陽の光を受けて輝いた。
扉を開けると、澄んだ青空が広がっていた。遠くの方に山が見える。
ほたるの長い髪が風になびく。
ふいによろけたほたるを、持ち前の瞬発力でナインが支える。
胸に顔をうずめるほたるを優しく抱きしめた。先程までなびいていた髪が、ナインの手の中にある。
こんなにも彼女はあたたかいのに、ここにしっかりと存在しているのに。
涙がこぼれそうなのを悟られないように、彼女の小さな頭をぎゅっと抱きしめた。
翌日から、ほたるは学校に来なくなった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。