「…俺、莉音のことが好きだ」
奏人の声は、震えていた。
奏人は、私から離れた。
ようやく奏人が顔を上げた。
目には涙が浮かんでいる。
奏人は目を見開いた。
奏人は、ちゃんと聞いていないと聞き取れないくらい小さな声で言った。
背後で声がした。
奏人が何かを悟ったふうに、声をもらした。
私達の後ろに、同級生くらいの女の子が立っていた。
「市原くん」って言ってたし、奏人の知り合いかな…
そう言って、三葉さんは頭をペコッと下げた。
なんだろう…なんか、めっちゃ小さいな。
身長は、140センチあるのか分からないほど小さい。
そして細い。
三葉さんの顔がポッと赤くなった。
あー、多分今から告白するんだな。
奏人が何か言いたげに私を見る。
私は思わず強い口調になってしまった。
奏人は、少しビクッとした後、小さく溜め息をついた。
三葉さんは、少し心配そうな目で私を見てから、奏人と一緒に人混みへ消えていった。
今日の私、どうかしてる…
渡瀬くんが好きなはずなのに、奏人を振れなかった。
さっきだって、あんな言い方…
すごくモヤモヤする。
奏人って、三葉さんと仲良いのかな…
私についた溜め息。
人混みへ消えていく奏人の背中。
全て、どこか寂しそうだった。
なんで寂しいの?
そして…
「私のことなんかいいから、行ってきなって!」
私は…なんであんな言い方をしたの?
答えは分かっていた。
私は…奏人が隣からいなくなることに、寂しさを感じているんだ。
私…奏人のこと、好きになっちゃったんだ。
もう、チャンスは通り過ぎてしまった。
それだけじゃない。
あんな言い方をしたんだ。
もう、今までのようには戻れないかもしれない。
私は、その場に崩れ落ちた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。