最初に違和感を覚えたのは、たぶん三ヶ月前だった。
JO1のダンス練習室。
床に置かれたスピーカーから低音が響いて、鏡には九人の姿が並ぶ。
「もう一回いこう」
そう言ったのは
JO1のリーダー、
與那城奨。
メンバーが息を整える中、私はペットボトルの水を配っていた。
スタッフ兼サポートダンサー。
それが私の立ち位置。
ステージに立つ彼らとは
ほんの少しだけ距離がある。
だけど――
「ありがと」
そう言って水を受け取った
川尻蓮の視線が
なぜか一瞬長くて。
「……?」
私が首を傾げると、蓮くんは何事もなかったみたいにキャップを開けた。
その時はまだ
ただの偶然だと思っていた。
⸻
「あなたちゃん、最近蓮くんとよく話してない?」
数日後。
休憩中、
河野純喜がニヤニヤしながら言った。
「え?」
「いや、なんかさ」
純喜はお菓子の袋を開けながら続ける。
「蓮くん、あなたちゃん来たら絶対そっち見る」
「気のせいじゃない?」
「いや絶対やって」
そう言って純喜は笑った。
でも――
その日の練習でも。
振りを確認している時、
鏡越しにふと目が合った。
蓮くんと。
彼は一瞬だけ微笑んで
すぐに視線を戻した。
(……なんだろ)
胸の奥が少しだけ
ざわつく。
⸻
それから。
小さな偶然が増えた。
・気づいたら隣にいる
・差し入れを渡すと必ず「ありがとう」と目を見て言う
・帰りのエレベーターがなぜか同じ
ある日。
練習が終わって、スタジオを出ると
「帰り?」
後ろから声がした。
振り返ると
蓮くん。
「うん」
「駅まで?」
「そう」
「じゃあ一緒に行く?」
自然すぎる誘い。
私は少し迷ったけど
うなずいた。
⸻
夜の道。
東京の空は少しだけ曇っていて
街灯の光がぼんやり広がっていた。
「あなたちゃんってさ」
蓮くんが歩きながら言う。
「ダンス好きだよね」
「え?」
「見るとわかる」
「そう?」
「うん」
彼は少し笑った。
「見る目がダンサー」
その言葉に、胸が少し熱くなる。
褒められたから?
それとも――
隣を歩く距離が近いから?
⸻
それからも
蓮くんは時々隣を歩いた。
でも決して距離は越えない。
連絡先も聞かない。
誘いもしない。
ただ――
近くにいる。
その距離感が
逆に気になった。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。