第7話

君に感謝を
17
2022/06/29 10:02
2033年。幸はとある高校の前にいた。
燕が前世と入れ替わっていたとき、彼もまた、来世と入れ替わっていた。そして今ある命は、前世の記憶を持つ彼女が繋いでくれたものだと知った。燕に会うために。会って、感謝を伝えるために。彼女の高校へ来たのだ。
幸(ゆき)
幸(ゆき)
お礼、言わなきゃ……
幸は校舎に入っていった。見覚えのある景色。小学4年生までの学力しかなくて苦労した日々が思い出される。
幸(ゆき)
幸(ゆき)
懐かしいな……って、
こんなこと考えてる暇はないな
幸(ゆき)
幸(ゆき)
あ、すみません
ちょうど近くを通った先生に声を掛けてみる。幸は28歳になった。小学生の頃のように内気な性格は成長と共に失くなっていった。声を掛けるのも、会話をするのも今では当たり前のように出来る。これも燕のおかげだ。
幸(ゆき)
幸(ゆき)
ここに、燕、って人いますか?
高校の先生
高校の先生
つばめ?
幸(ゆき)
幸(ゆき)
はい、僕、知り合いなんですが
高校の先生
高校の先生
そんな子、この学校にはいないわよ?
一瞬、時が止まったように感じた。は?意味が分からない。確かに彼女は、燕は、この年、17歳で、この高校にいて…………

幸は混乱した。
高校の先生
高校の先生
あの……
幸(ゆき)
幸(ゆき)
ここにいるはずなんです……!
高校の先生
高校の先生
えっ
幸(ゆき)
幸(ゆき)
彼女は、この学校に通ってるんだ!
高校の先生
高校の先生
ですから、この学校には……
幸(ゆき)
幸(ゆき)
信じられない……!
幸は燕のクラスへ走った。そして彼女を探した。
幸(ゆき)
幸(ゆき)
燕……!つばめ!
幸(ゆき)
幸(ゆき)
ねぇ!ここに燕って子いるよね…!
高校のクラスメイト
高校のクラスメイト
え、えっと、
幸(ゆき)
幸(ゆき)
今、どこに
高校のクラスメイト
高校のクラスメイト
そんな人、見たことも聞いたこともないですよ……?
幸(ゆき)
幸(ゆき)
え、君、何言って……
高校の先生
高校の先生
あの……!これ以上校内で騒ぐのであれば、警察を呼びますよ!
幸(ゆき)
幸(ゆき)
あ、っ…………ごめんなさい……
高校の先生
高校の先生
もう、お引取りください
幸(ゆき)
幸(ゆき)
……………………はい
燕はいなかった。確かにいたはずの彼女はいなくなっていた。いや、いなくなったのではない。皆、まるで元から燕は存在していなかったというような態度だった。だとすれば考えられるのは1つしかない。
幸(ゆき)
幸(ゆき)
僕が、自殺をしなかったから……?
燕は幸せになるために幸の自殺を止めた。しかしそのせいで、彼女の存在自体が消えた。こんなの、あんまりだ。
幸(ゆき)
幸(ゆき)
なんで……こんな……………………
幸(ゆき)
幸(ゆき)
クソッ!
「私は幸せになるんだ!」彼女の笑顔が脳裏にこびり付いて離れない。存在しない来世の記憶に幸は苦しめられる。まるで首を絞められているようだった。
幸(ゆき)
幸(ゆき)
やめろ…………やめろ!!!!!!
燕は、まるで幸を責めるかのように、ずっと笑顔だ。
幸(ゆき)
幸(ゆき)
存在しないくせに……
そんな顔で笑わないでよ…………
いつの間にか辺りは暗くなり、雪が降り始めた。
寒空に、幸は独り呟いた。

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