僕は、1番最後にこのカフェに来た。
ヒョンたちほど思い入れもない。
でも、何もかもが新しくて、楽しくて、幸せだったと思う。
こんな僕でも、この場所を大切だと思えた。
背中の甲赫は重く、今までで1番大きく広がっている。
崇められる度に嫌いになっていったこの赫子が、ようやく役に立つ日が来たのだ。
赫子のひと振りで面白いほどに潰れていく建物。人。町。
きっと神のままでは知り得なかった、喰種としての本能が、沸騰するように溢れかえった。
生まれた時から、身の回りには信者の喰種しかいなかった。
僕の説得によって、変な信仰に気づいた喰種もいた。それを僕はこっそり逃がした。
次の日に、彼らは僕へ献上される肉となった。
彼らの肉が、僕の体を強くした。
滾る血。細胞。今、ここまで重ねた人生が全て僕の味方だと思える。
ヒョンたちを守ることは大義名分。
そのはずが、なんだか楽しくなって、安心できて、不思議な感覚。
気づくと、瓦礫の上に僕は立ち尽くしていて、1面は血の海だった。
もう人1人居ない。
秀色神采。とても美しい景色だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。