第24話

別人
314
2018/02/24 09:23
バンバン、バシ、バサッ、シュッ、ドン、ザッ、パシュッ、サッ、ザザッ、ドドンッ、ババン

畳を叩く音。い草の匂い。木の匂い。
そして、湿気で曲がった100枚の札。
目の前に広がる世界は、日本の伝統的な遊び。
背中には“天海カルタ会”と達筆なレタリングが刻まれているシャツ。
長い髪をポニーテールにし、コンタクトを外しメガネに替える。
緋色郁文
緋色郁文
ねーちゃん気合い入ってんなー
てか、腰だいじょぶなの?w
郁文も同じ姿だ。
緋色あん
緋色あん
平気よ。…勝つから。
天海先生
「なにわずに─咲くやこの花─
 冬ごもり─
 いまをはるベと─咲くやこの花─」
序歌が読み終わる。さあ、始まりだ。
天海先生
なにし─
シュサッ──
緋色郁文
緋色郁文
チッ、抜かれた。
緋色あん
緋色あん
ふぅ…ちょっと痛いね…
天海先生
わすらる─
緋色あん
緋色あん
っよし!!
緋色郁文
緋色郁文
マジかよ。
天海先生
め─
緋色郁文
緋色郁文
よしゃっ!
一字決まり。
天海先生
たき─
ザッ─
緋色あん
緋色あん
ハァッ…
天海先生
かさ─
緋色あん
緋色あん
…よし、得意札抜いた!!
そう。私が帰宅部の理由。

“百人一首”があるからだ。

“競技かるた”があるからだ。
緋色郁文
緋色郁文
今日は勝ったから
ねーちゃん夕飯作ってね。
緋色あん
緋色あん
はいはい。
緋色郁文
緋色郁文
マジであつい。
…ん?ねーちゃん、あれ。
郁文の指さした方向、反対側の道路には自転車に乗った集団。
スポーツのユニフォームを着た男の子達。
その中の1人。
緋色あん
緋色あん
神谷じゃん!?
だが、神谷は気づいていない。
なにせこの髪型と眼鏡と服装。
別人にしか見えない。

結局通り過ぎていった。

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