バンバン、バシ、バサッ、シュッ、ドン、ザッ、パシュッ、サッ、ザザッ、ドドンッ、ババン
畳を叩く音。い草の匂い。木の匂い。
そして、湿気で曲がった100枚の札。
目の前に広がる世界は、日本の伝統的な遊び。
背中には“天海カルタ会”と達筆なレタリングが刻まれているシャツ。
長い髪をポニーテールにし、コンタクトを外しメガネに替える。
郁文も同じ姿だ。
序歌が読み終わる。さあ、始まりだ。
シュサッ──
一字決まり。
ザッ─
そう。私が帰宅部の理由。
“百人一首”があるからだ。
“競技かるた”があるからだ。
郁文の指さした方向、反対側の道路には自転車に乗った集団。
スポーツのユニフォームを着た男の子達。
その中の1人。
だが、神谷は気づいていない。
なにせこの髪型と眼鏡と服装。
別人にしか見えない。
結局通り過ぎていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!