生まれて初めて、凛ちゃんに隠し事をされた気がする。
本人は気付いて居ないけど、
帰って来た時の笑顔がぎこちなかったし。
.........何より。
彼女から香った他の誰かの匂いが、堪らなく不快で。
食後の食器を洗ってくれて居る彼女に抱き付いて、囁く。
振り返って俺を見つめる瞳は、優しい。
彼女の行く末を、ずっと見つめて居たい。
その言葉自体が深い意味を持たなくても良い。
これが幸せ。この瞬間が幸せ。
俺の事を恋愛的な意味で好きじゃなくても。
愛を感じられるから。
今の内に、噛み締めて置かなくちゃ。
胸いっぱい、彼女の想いで満たされるこの瞬間を。
幼馴染の特権って奴。だって、そうでしょ?
温もりに触れられてる。
無条件に大好きな人を抱き締められる。
こんな事が許されるのは、今は世界中を探しても俺だけ。
腕を広げて、呆れ半分に笑って。
今は他の誰でもなく、俺を見てくれる。
制限なく、幸せが続けば良いのに。
もう、凛ちゃんと聡海くんは出会ってしまった。
一緒に帰る程の仲になってしまった。
彼女の可愛い笑顔が俺だけの物では無くなってしまった。
薄汚い独占欲が、頭の中を侵食して行く。
それを悟られないよう。もう一度、凛ちゃんを抱き締めて。
強く強く目を閉じる。
手慣れた手つきで頭を撫でてくれる温もりが心地良い。
やがて襲って来た眠気。
抗う事無く、意識を手放した。
.....................................。
次に目を覚ました時、辺りはもう真っ暗で。
右手に重みを感じつつ、起き上がると。
分かりやすく夢を見て居る凛ちゃんの寝言が、耳に入って。
床に放置しても良いのに、背中が痛くならないようにと。
さり気ない優しさに思わず。表情を緩めた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。