それから少し話して、お母さんとの通話は終わった。
出した転校届の取り消しをしなくてはならないが、
今は、そんな事より気になる事がある。
怒って居るようにも、寂しそうにも見える幼馴染の。
学校を抜け出してまで来てくれた理由が、気になった。
数分の間、お互いに何も話さない時間が続いて。
梨央が、ゆっくりと口を開く。
私の知らない、見た事も無い顔で。
心の内を、久しぶりに語ってくれた彼が。
ワガママばっかでごめんね、と笑うから。
そっと頭を撫でて、同じ目線で微笑む。
...すると。彼の目に映る私が、急にぼやけた。
その頬を滑り落ちて行く涙を見て、慌てて声を掛けるけど。
下手くそな泣き笑いを見て居る内に、
何だか、私の涙腺まで緩んでしまって。
だだっ広い空港の、搭乗口の隅で。
子供みたいに、顔を見合わせて泣いた。
.........................。
とりあえず学校に戻ろう、と言う事になって。
今は、電車の中。
規則正しい揺れが、若干の眠気を運んで来た頃。
電車が学校の最寄り駅に到着して、
不思議な気持ちになりながらホームに降り立つ。
...が、そこから先の足が進まない。
そんな私の様子を見兼ねてか。
ポン、と梨央の手の平が私の背中を叩く。
心からの本心の笑顔は、私の不安を消し去ってくれて。
本当に良い幼馴染を持ったと、つくづく思いながら。
先を行く背中を、追いかけた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。