混み合う校門前を抜けて。
張り出されたクラス表から自分の名前を探す。
つい彼女の名前を探してしまうけど、載っている訳が無く。
居座っても迷惑になるだけだと、足早に教室へ向かった。
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中に入れば、何やらソワソワしているクラスメイト達。
声を掛けてくれた去年からの友達に、聞いてみる。
すると友達は、視線を俺の席の方にズラして教えてくれた。
どうやら、教室の真ん中付近に目立つ空席があり。
それを見つけた一部のクラスメイト達の噂が、
広まったようだった。
女子が良いとボヤく友達に苦笑してから、席に座る。
俺も、そんな事を聞いてしまったからか。
前の座席が気になって仕方が無い。
周りと挨拶を交わしながら先生を待っていると。
ガラッと扉の音が響き、担任が姿を現した。
全員が席に座ったのを確認してから、
何かを黒板に書き始める。
『香寺 凛』
ずっとずっと、待っていた人の名前が書かれた瞬間。
俺の心臓は大きく跳ねた。
動揺を隠せない俺を置いて、話はどんどん進んで行き。
先生が廊下に声を掛ければ、透き通った声で返事があって。
クラスメイトが最後の予想をしている所に、
"転校生"が入って来る。
全員の視線を受け止めながらも
自然な笑顔を浮かべて自己紹介する姿は、とても綺麗で。
誰もが見惚れる中、先生の紹介が続いた。
『帰国子女』と言うワードにも興味津々なクラスメイトは、
既に質問攻めする準備万端の雰囲気。
とうとう、俺の前の席が指され。
必然的に、彼女の視線もこちらに向く。
緊張は最高潮。
忘れられているのでは無いかと言う不安と、
抑えきれない嬉しさ。
目が合って。
颯爽とした足取りで俺の前まで来た彼女は、微笑んだ。
10年の時を経て。
俺の、初恋を実らせるまでの物語が、動き出す。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!