さっきから、凛ちゃんがソワソワして居る。
まだ日本で授業を受けた事が無いから、なのだろうか。
やっぱり好きな教科は英語で、得意になりたいのは数学。
根っからの文系な彼女は、待ち遠しくて仕方が無いらしい。
分かりやすくて、でも、そこが可愛くて。
汚い事を知らない、素直で澄んだ心を持つ幼馴染。
.......だからこそ、俺が守ってあげなくちゃいけない。
凛ちゃんに不利益になる人は、全部、遠ざけて来たから。
友達として、先輩としては尊敬出来る聡海くんも。
この恋を実らせる上で行く手を阻むなら、敵だ。
ズルいから、賢く生きて来られて。
バレる事なく小さな嘘を積み重ねて来た。
...そう遠くない未来に、この努力は。
音を立てて崩れ落ちてしまうのに。
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『ねえ聞いた?C組の香寺さんの話』
『転校生伝説』が出来るまでに、時間は掛からなかった。
...彼女は、何をやらせても人並み以上に出来るから。
まずは、この間の初授業。
生徒間では有名な英語教師の無茶振り。
今回は、3年生で習うような事を聞いて来て。
誰もが解けないだろうと思って居た。
一瞬だけ黒板を見た凛ちゃんが、
完璧な発音でスラスラと話し出すまでは。
どうやら、その後に流し聞きした先生の話に寄ると。
文の中にあった『could』と言う単語。
これが前にある単語によって使い方が大きく変わるらしい。
それを、2年生が難なく答えてしまう。
話題にならない訳が無かった。
.......他にも。
担任の気まぐれで測った持久走のタイム。
陸部の不動のエースさえ、ぶっちぎりで追い抜き。
息切れ1つせず立っていたり。
皆が大きな声で騒ぐ掃除中、
周りに流されず、1人で黙々と働く真面目さとか。
どんどん彼女の印象や有名度は上がって。
気付けば、校内に知らない人は居なかった。
.....それを良く思わない人も、出て来たけれど。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。