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ある朝の、昇降口。
上履きに履き替える為、下駄箱に手を伸ばした私。
何か、紙のような物が入っている事に気付く。
梨央に見られる前に、鞄の中に滑り込ませて。
彼と教室に向かったのだけど、それが間違いだった。
火に油を注いでしまったようなのだ。苦手タイプの人に。
『放課後、1人で2号館の空き倉庫に来い』
手紙から文章から伝わる、沢山の人の悪意。
『紅橋くんとか友達に何か言ったら酷い目に遭うよ?』
足元が震えて。思わず、しゃがみこんでしまった。
無事では帰れないと、分かってしまったから。
自分1人の怪我と。友達、幼馴染の怪我。
天秤に掛けたら、どっちが重いかなんて一目瞭然で。
恐怖を殺し、鏡の中の自分に笑いかけた。
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私達が普段使っている1号館校舎と比べて。
圧倒的に人気が少なく、古びた雰囲気の校舎。
打って付けだったんだろうなと、睨み付けられながら思う。
既に震えている指先を握りながら遅れた理由を話すと。
_____ガンッ!!!
いつの間にか密室となった倉庫の壁が蹴られる鋭い音。
良い子ぶってんじゃねぇよ、と低い声で言われた。
弁解しようとした私の声を遮る先輩。
瞳には、私への憎悪しか見えなくて。
キャハハ...とした甲高い笑い声だけが、響く。
もう、耐えられなかった。
私達の関係を偽物扱いされるのも、馬鹿にされるのも。
もう、私はどうなっても良い。良いから。
この気持ちと、思い出だけは汚させない。
.........触れさせない。
先輩達の激情に任せて振り上げられた手の平。
やって来るであろう痛みに備え、キツく目を瞑る。
_____けれど。
想像して居た痛みが、私に襲い掛かる事は無くて。
代わりに聞こえたのは、先輩達の焦る声と。
静かな怒りを含む、低い声だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!