桃谷先輩と校門前で別れて。
いつも通り、梨央と一緒に帰路に着く。
違和感に気付いたのは、歩き始めて直ぐの事。
どんな話にだって楽しそうに頷いたりしてくれる彼が。
今日は、やけに静かで。
チラリと表情を窺えば、何処か遠くを見て居る様だった。
何となく不安になって、名前を呼んで見る。
誰よりも多く呼んで来た自信のある、彼の名前を。
…でも、返って来たのは。
優しくて暖かい『なぁに?』と言う声では無く。
心の芯が一瞬で冷やされる視線。
いつもの彼が何処にも居ない事が、ただ怖くて。息を呑む。
数秒後、ハッとしたように目を瞬かせた彼に。
慌てて謝られたけれど。
自分の強ばった顔が、緩む事は無かった。
…………………………。
〈梨央side〉
何処かで、『大丈夫だろう』と高を括って居た心に。
今日、厳しい現実を突き付けられたような気がした。
女の子にしては身長が高い凛ちゃんに。
身長が伸びない事に悩む俺と。
背も高くて、スタイルも抜群な聡海くん。
固く目を瞑れば、笑い合う2人の姿を思い出してしまって。
今頃、デートの準備でもして居るのかな、なんて。
窓越しの彼女の部屋に視線を送る。
『好きだよ』と、言葉にしなくても。
いつかは伝わってくれると思って居た、過去の自分。
誰に向けた訳でも無い呟きは。自室の壁に、消えて行った。
_______。
そして、土曜日。
皮肉にも外は快晴で、絶好のデート日和だ。
ついさっき、フラッとウチにやって来た凛ちゃんは。
可愛らしいワンピースを着て、楽しそうに笑って居て。
心が痛まなかったかと問われれば、嘘になってしまうけど。
何もしない癖に、誰かを妬むのは辞めると決めたから。
今日は大人しく、見送ろうとしたのに。
…無理だった。
…耐えられなかった。
扉の向こうに消えかけた彼女の腕を掴んで、引き寄せる。
情けないほど震える声で、ようやく伝えられた本音。
酷く驚いた様子で、目を見開く彼女に。
薄く微笑んで、想いを告げた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。