先程の出来事は、彼女の心に少しでも。
思い出として、残ったのだろうか。
何処からとも無く現れた紅橋に、
香寺ちゃんは連れて行かれてしまった。
お題の内容も話して無いし、
1位の結果だって十分に喜びを分け合って無い。
大好きな幼馴染の事となれば、
彼も普段とは違う性格になるのだろう。
それは、俺にも当てはまって居て。
激しく共感できた。
_ペラリ。
未だ手の中にある、回収され忘れたお題用紙を再び開く。
もう、『気になる』と言う言葉では足りない位。
俺は、彼女に惹かれて居て。
嫌いです、なんて言われたら。
丸1週間くらい、余裕で寝込める自信がある。
しつこいアタック上等。
少しでも俺を見てくれるなら、それだけで大きな進歩。
俺の、初めての"追い掛ける恋"は。
まだ、始まったばかり...と言いたい所だけど。
この恋を実らせる上で壁になる物が、俺には2つある。
____1つは、言わなくても分かるだろう。
お互い名前呼び、タメ口で話す事を許して居る相手で、
最大の恋敵と言っても過言では無い奴。
その上、彼女の幼馴染なのだから。不利な点しか無い。
___そして、2つ目。
俺の学年と、残された高校生活の短さだ。
彼女と初めて話したのが4月の始業式の日で、
今は夏真っ盛りの7月中旬。
卒業が来年の3月だと考えると...残りはあと8ヶ月。
しかも夏休みに入れば予備校も始まるから、
遊べる日は限られて居る。
でも、それでも。好きなのだ。
恋、勉強。
どちらの闘志も新たに。
そっと、目を細めた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!