開きっぱなしの扉から吹き込む風が、
私達の間を通り抜ける。
何か言わなければと思うのに、
言葉が喉に詰まって出て来ない。
頭の中には、焦りを伴った疑問ばかり浮かんで来て。
目の前に居る幼馴染の瞳を、見る事も出来ずに。
何か言いかけた彼の声を無視して、逃げるように走り出す。
___バタン。
背後で閉まる扉は、まるで。
私達を隔てる、心の壁が出来てしまったようだった。
_______。
…そんな事があったからか。
あんなに楽しみだった桃谷先輩とのお出かけも、
心から楽しむ事が出来なくて。
沢山、気を遣わせてしまい。
幾つかのお店の紙袋を持つ先輩の横を、黙って歩く。
不意に、先輩の歩みが止まって。
数歩後ろから掛けられた声に、返事をしながら振り返る。
夕陽に照らされて光る先輩の表情は、どこか切なげで。
曖昧に笑って見せるけど。
先輩は一瞬だけ仕方なさそうに笑ってから、私に告げる。
その言葉に。ドキリ、と心臓が跳ねた。
まさしく、"図星"だったから。
そんな私の内心を読んでか、
確信を得たように首を傾げる先輩に、頭を下げる。
先輩になら今朝の事を話して良いと思えた。
梨央も私も、尊敬する人だから。
頭を下げ続ける私の前で、桃谷先輩は屈んで。
私の視界の中で、綺麗に微笑んだ。
_____。
桃谷先輩と共に近くのカフェに入った私は。
先輩が聞く体勢を整えてくれると同時に、口を開く。
言うべきでは無いと思う所は伏せて、
主となる部分だけを、先輩に話した。
黙って私の話を聞いてくれた先輩は、
飲み物を少し口にしてから、話し出す。
優しい光で満ちる先輩の瞳に、導かれるように。
頭に"彼"の姿を思い浮かべて、考える。
困った時、苦しい時。
いつも1番最初に頭に浮かんだのは__
家族でも、友達でも、先輩でも無かった。
思わず、梨央の名前を口にした私に。
何故か先輩が、困ったように笑う。
それを不思議に思いながらも、頷くと。
背中を押してくれる、先輩の暖かい手。
お礼を伝えて、駆け出した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。