第37話

第36話
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2021/06/01 13:22
開きっぱなしの扉から吹き込む風が、
私達の間を通り抜ける。
凛
えっ…と
何か言わなければと思うのに、
言葉が喉に詰まって出て来ない。
凛
(…いつから?)
凛
(いつから梨央を、苦しめてたの?)
頭の中には、焦りを伴った疑問ばかり浮かんで来て。
凛
…っごめん。帰って来たら、また話そう
目の前に居る幼馴染の瞳を、見る事も出来ずに。
梨央
梨央
あ、凛ちゃ…
何か言いかけた彼の声を無視して、逃げるように走り出す。
___バタン。
背後で閉まる扉は、まるで。
凛
(私、いつもこうだ)
私達を隔てる、心の壁が出来てしまったようだった。
 _______。
…そんな事があったからか。
あんなに楽しみだった桃谷先輩とのお出かけも、
心から楽しむ事が出来なくて。
聡海
聡海
……香寺ちゃん、具合悪い?
凛
っいえ!全然!全然、元気です
聡海
聡海
…なら、良いんだけど…
沢山、気を遣わせてしまい。
幾つかのお店の紙袋を持つ先輩の横を、黙って歩く。
聡海
聡海
…ねぇ、香寺ちゃん
不意に、先輩の歩みが止まって。
凛
…?はい
数歩後ろから掛けられた声に、返事をしながら振り返る。
聡海
聡海
…俺だったら。
俺だったら、香寺ちゃんに…そんな顔させない
夕陽に照らされて光る先輩の表情は、どこか切なげで。
凛
そ、そんな酷い顔してましたか…!?笑
曖昧に笑って見せるけど。
先輩は一瞬だけ仕方なさそうに笑ってから、私に告げる。
聡海
聡海
…ううん。やっぱ何でもない。
梨央と何かあったの?
凛
………っ
その言葉に。ドキリ、と心臓が跳ねた。
まさしく、"図星"だったから。
聡海
聡海
……当たり?
そんな私の内心を読んでか、
確信を得たように首を傾げる先輩に、頭を下げる。
聡海
聡海
えっ、香寺ちゃん!?
凛
……桃谷先輩
先輩になら今朝の事を話して良いと思えた。
凛
話を、聞いて頂けませんか…?
梨央も私も、尊敬する人だから。
頭を下げ続ける私の前で、桃谷先輩は屈んで。
聡海
聡海
……いいよ
私の視界の中で、綺麗に微笑んだ。
_____。
桃谷先輩と共に近くのカフェに入った私は。
先輩が聞く体勢を整えてくれると同時に、口を開く。
凛
……今朝の、事なんですけど
言うべきでは無いと思う所は伏せて、
主となる部分だけを、先輩に話した。
聡海
聡海
………
黙って私の話を聞いてくれた先輩は、
飲み物を少し口にしてから、話し出す。
聡海
聡海
香寺ちゃんは、梨央とどうなりたいの?
凛
…どうなりたい…ですか?
優しい光で満ちる先輩の瞳に、導かれるように。
聡海
聡海
そう。幼馴染のままで居たいのか…
恋人って言う関係になりたいのか。
そこをハッキリさせれば、
答えは出て来ると思うよ
凛
__私は……
頭に"彼"の姿を思い浮かべて、考える。
困った時、苦しい時。
いつも1番最初に頭に浮かんだのは__
家族でも、友達でも、先輩でも無かった。
凛
………梨央…
思わず、梨央の名前を口にした私に。
聡海
聡海
…答え、出た?
何故か先輩が、困ったように笑う。
凛
………はい。出ました
それを不思議に思いながらも、頷くと。
聡海
聡海
そっか。じゃあ、行っといで。
…今日はありがとう
背中を押してくれる、先輩の暖かい手。
凛
 こちらこそ、ありがとうございました…!
お礼を伝えて、駆け出した。

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