途切れぬよう
言葉を紡ぐ。
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橘氏。
源平藤橘と総称される、日本古来の四姓の一つ。
私らは、そこの系譜の者として生まれた。
お嬢様で、若くして業界の上へ登り続ける、順風満帆の人生。
世間一般からは、そう見られていることだろう。
でも、どんな人でも、イメージ通りには行かない。
父親は、厳しく頑固な人だった。
もっとも、私の、過去の印象だが。
小学校低学年のとき、あなたのことを見る、父の目。
冷たく、人間ではないようなものを見るようなその目に、恐怖が体を走った。
その頃のあなたはずっと怯えていた。
私は逃げていた。
同じ扱いを受けるのが怖かった。
ただ、ある日、襖の隙間からふと除くと、血が流れる腕を押さえるあなたと、庇う母。そして割れた瓶を持った父親だった。
その時、自分の中にある糸が切れた。
私は、なにをしていたのだろう。
なにを、怯えていたのだろう。
怖がって見ているだけなど、している者と同じじゃないか。
泣くあなたを抱えながら、自分の情けなさに怒った。
それからというもの、ことあるごとに二人の間に割って入るようになり、あなたと一緒に過ごす時間が延びた。
中1のとき、やっと両親が離婚し、父親は橘家から追い出される形となった。
ただ、あなたの性格は、怯えていた頃と大きく変わった。
売られた喧嘩をかたっぱなしから買って、ほぼ無傷で帰ってくるのがほとんどだった。
その時のあなたは、いつにも増して、鈍い目をしてやや項垂れて歩いていた。
あなたの前に立ち、肩を貸して足を進める。
思わず止まりそうになった脚を、なんとか動かす。
何も、言えなかった。
その日から、自分の口から言葉が途切れるのが怖くなった。
同時に、ある記憶が蘇った。
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私のことを、キラキラした人間だと思ってる。
自分とは違う人間だと思ってる。
__嗚呼、違う。違うんよ。
お前は、自分の出来ることが分かってないだけ。
お前はなんも悪ない。
でも、私がもうちょっと早く、側におったら、違ったんかもな。
ごめんな。
橘…花言葉__
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。