第41話

望、
471
2021/12/30 12:32
途切れぬよう


言葉を紡ぐ。

_____________
橘氏。



源平藤橘げんぺいとうきつと総称される、日本古来の四姓の一つ。
私らは、そこの系譜の者として生まれた。

お嬢様で、若くして業界の上へ登り続ける、順風満帆の人生。

世間一般からは、そう見られていることだろう。


でも、どんな人でも、イメージ通りには行かない。

父親は、厳しく頑固な人だった。

もっとも、私の・・過去の・・・印象だが。

小学校低学年のとき、あなたのことを見る、父の目。

冷たく、人間ではないようなものを見るようなその目に、恐怖が体を走った。
その頃のあなたはずっと怯えていた。
私は逃げていた。

同じ扱いを受けるのが怖かった。


ただ、ある日、襖の隙間からふと除くと、血が流れる腕を押さえるあなたと、庇う母。そして割れた瓶を持った父親だった。

その時、自分の中にある糸が切れた。

私は、なにをしていたのだろう。

なにを、怯えていたのだろう。

怖がって見ているだけなど、している者と同じじゃないか。


泣くあなたを抱えながら、自分の情けなさに怒った。
それからというもの、ことあるごとに二人の間に割って入るようになり、あなたと一緒に過ごす時間が延びた。

中1のとき、やっと両親が離婚し、父親は橘家から追い出される形となった。

ただ、あなたの性格は、怯えていた頃と大きく変わった。
売られた喧嘩をかたっぱなしから買って、ほぼ無傷で帰ってくるのがほとんどだった。


橘 弘樹
…?
橘 弘樹
あなた?
その時のあなたは、いつにも増して、鈍い目をしてやや項垂れて歩いていた。
橘 弘樹
あなたっお前なんして…
あなたの前に立ち、肩を貸して足を進める。
あなた
…ヒロ
橘 弘樹
、んっ?
あなた
私、何目指してんの?
思わず止まりそうになった脚を、なんとか動かす。
あなた
分からんのよ。自分が何したいんか
橘 弘樹
ッ…

何も、言えなかった。


その日から、自分の口から言葉が途切れるのが怖くなった。


同時に、ある記憶が蘇った。


___
あなた
なんで、そんなふうにできんの
あなた
眩しいねん。お前


私のことを、キラキラした人間だと思ってる。


自分とは違う人間だと思ってる。


__嗚呼、違う。違うんよ。


お前は、自分の出来ることが分かってないだけ。

お前はなんも悪ない。


でも、私がもうちょっと早く、側におったら、違ったんかもな。




ごめんな。



橘…花言葉__

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