そんな軽口を叩きながら帰宅すると、
家の前に見覚えのある人物が立っていた。
高臣が開けてくれた扉から、
リムジンに乗り込み……。
鷹宮家に着くや否や、
私は晴くんと別の部屋に連れていかれた。
嫌な予感というのは、当たるもので──。
寄ってたかって服を引っぺがされ、
怒涛の勢いで私は深紅のドレスに
着替えさせられる。
私の意思なんてそっちのけで、
メイクまで施された。
私はメイドさんたちに促され、
大きな鏡台の前に立つ。
胸元が大きく開いた、
私にはちょっとセクシーすぎるドレス。
だけどナチュラルながらも、
ゴールドを基調としたアイシャドウや
薄く引かれた口紅のおかげでドレスが浮いてない。
頬に手を当てて感激していたら、
背後で扉がノックされる。
扉越しに聞こえてくる高臣の声に、
私は返事をして振り返った。
中に入ってきたのは、
高臣だけじゃなくて……。
クリーム色のスーツを身に纏った晴くんが、
瞬きも忘れて固まっている。
でも、そんなことすら気にならないほど、
私は晴くんに目を奪われていた。
お互いに言葉もなく見つめ合う。
メイドさんたちのヒソヒソ話は、
私たちの耳にも入ってきて……。
晴くんと同時にすっと目を逸らす。
深呼吸して気持ちを落ち着けていると、
晴くんがすっとこちらに手を伸ばしてきた。
メイドさんや高臣の前だからか、
晴くんは優しい口調で言う。
私はゆっくりと晴くんに近づいて、
差し出された腕に自分のそれを絡めた。
すると晴くんは私にしか聞こえないほど
小さな声で話しかけてくる。
いつもの晴くんなら、
私のことなんて置いて行っていたはずだ。
こっそり盗み見ると、
晴くんの横顔が赤く染まっているのに気づいて、
私は慌てて視線を逸らす。
私は恥ずかしさをごまかすように、
晴くんの腕をぎゅっと掴むのだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。