私の婚約者は、柴園寺 晴。
学園では爽やか王子、だけど本当の姿は……。
婚約者である柴園寺くんと住むことになった
一軒家に怒鳴り声が響き渡る。
同居生活が始まった翌日。
家ではめちゃくちゃ腹黒な柴園寺くんの
ギャップに、動揺を隠せない。
私は身支度もそこそこに、リビングへ行く。
柴園寺くんと寝室はもちろん別だが、
お風呂やリビングは当たり前だけど共有。
そんなくだらないことを考えて
リビングの扉を開ければ──。
スマホ越しに柴園寺くんが誰かに
ぶちギレていた。
静かに観察していると、
柴園寺くんは諦めたように通話を切って、
スマホをソファーに投げる。
そして私の視線に気づくと、
露骨に嫌そうな顔をした。
ぶつぶつ文句をもらす柴園寺くん。
そう決心を固めつつ、
私はリビングの奥にあるキッチンに立つ。
冷蔵庫を開けると、高臣があらかじめ
用意してくれた食材がたんまりと入っている。
柴園寺くんのことは気にせず料理を作り始め、
30分ほどで出来上がったお味噌汁や焼き魚、
かぼちゃの煮物にほうれん草のおひたし
などなどをテーブルに並べていく。
口では強がっているが、
柴園寺くんのお腹がぎゅるぎゅるぎゅると鳴る。
ううむ、と柴園寺くんは難しい顔をする。
でも、目の前の食料と自分のお腹を交互に見て、
最終的には渋々、箸を手に取った。
なんて強がってはいるけど、
頬を緩ませて朝食を食べている。
私はこっそり笑う。
会話がなくても、誰かが同じ空間にいる。
ただそれだけのことが、
こんなに落ち着くものなのだと
改めて知った朝だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。