第22話

婚約破棄
3,771
2021/04/04 09:00
胸がチクチクと痛みだす。
あなた

(晴くんと仲良くなれたって
思ってたのに……)

あなた

わかった

柴園寺 晴
柴園寺 晴
は?
あなた

じゃあ、先輩の婚約者になる

私は勢いで家を飛び出す。
あなた

お父さん、私──っ、
真白先輩の婚約の申し入れ、
受ける!

おさまらない苛立ちもそのままに、
私はスマホに向かって叫んだ。
お父さん
お父さん
家柄は柴園寺家に
比べれば劣るが、問題はそこではない。
有栖川家が起こした不祥事のことだ。
私は賛同できない
あなた

賄賂で選挙に勝ったって
話でしょ? それなら真白先輩には
関係のないことだよ

お父さん
お父さん
そうは言ってもな。
お前の幸せを思うと、
簡単に頷くわけには……。そもそも、
お前には晴くんがいるだろう?
あなた

晴くんは、私と婚約を
破棄できたらせいせいすると思う。
必要とされてないのに、晴くんの
婚約者ではいられないよ

お父さん
お父さん
あなた……
あなた

だから晴くんとの婚約は
破棄する

あなた

私は、私を好きだと言ってくれた先輩と
一緒に過ごしてみたい。それで心から
好きになれたらいいと……思う

お父さん
お父さん
そうか、お前の気持ちはわかった。
あなたの気持ちがなにより
大事だからな。
お前の意思を尊重したい
お父さんが心配しながらも承諾してくれる。

私は通話を切ると、今度は高臣に連絡した。

晴くんと過ごしたあの家ではなく、
鷹宮家に戻るために。

***

数日後、正式に柴園寺家との婚約は破棄され、
私は真白先輩の婚約者になった。
あなた

(なんで、あんな売り言葉に
買い言葉で先輩の婚約者に
なるとか言っちゃったんだろう)

放課後、生徒会の仕事をしながら
私は自己嫌悪に陥っていた。
あなた

(真白先輩なら、私がいなくなって
せいせいするとか、
絶対に言ったりしない)

あなた

(真白先輩を好きになれたら、
絶対に幸せになれる)

あなた

(でも、どうして……。
晴くんの顔が頭に浮かぶの?)

有栖川 真白
有栖川 真白
本当によかったの?
あなた

え?

生徒会の資料をホチキスで延々と留めていた私に、
真白先輩が心配そうに尋ねてくる。

顔を上げると、
さっきまで生徒会室にいた他の生徒会メンバーは、
なぜかいなくなっていた。
あなた

あれ? みんなは……

有栖川 真白
有栖川 真白
帰したよ。あなたちゃんと
話がしたくて
あなた

話?

有栖川 真白
有栖川 真白
うん、俺から言ったのに、
なに言ってんだよって
思うかもしれないけど、
俺と婚約して、よかったのかなって
あなた

あ……先輩、こんなこと
先に言うのは、気が引けるん
ですけど……

有栖川 真白
有栖川 真白
いいよ、なんでも話して。
あなたちゃんの気持ちなら、
どんなものでも知りたい
あなた

先輩……ありがとうございます。
それから、ごめんなさい

私は深々と頭を下げた。
あなた

卒業までに先輩に
恋できなれなければ、婚約は……
破棄させてもらえたらと……

有栖川 真白
有栖川 真白
俺がそれでいいって言ったんだ。
だから、謝る必要はないよ。
でも、婚約者でいさせて
もらえるうちは、あなたちゃんの
ことを全力で大切にする
あなた

先輩……すみません

私は肩を竦める。

言葉のとおり先輩は、
私を邸まで送り迎えしてくれるし、
生徒会の仕事も優しく教えてくれた。
あなた

(でも、どうしても──)

晴くんと一緒に暮らした時間が、
私の心を捉えて離さなかった。

***

ついに文化祭の日。

生徒会は学園内のパトロールに追われていた。

すると──。
女子生徒1
女子生徒1
きゃーっ
あなた

(この女子の甲高い悲鳴……!
まさかっ)

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