文化祭が終わったあと……。
私はドレスアップして後夜祭のダンスパーティーで、
真白先輩と踊っていた。
先輩の表情が切なそうに歪んだ気がして、
私は首を傾げる。
不意打ちの告白に、
私はまた先輩の足を踏んでしまった。
だけど、先輩にときめくたびに、
さっき晴くんに抱きしめられた感触や
近づいた唇が脳裏に蘇る。
曲が止み、私たちはお辞儀をして身体を離す。
先輩がなぜか悲しそうに笑っている気がして、
声をかけようと一歩足を踏み出しかけたとき──。
聞き覚えのある声に振り向けば、
そこにはタキシード姿の晴くんが立っていた。
向けられた真剣な瞳から、目を逸らせない。
心臓だけじゃなくて、身体中が喜びに震えてる。
すっと私に向かって、
晴くんが手を差し伸べる。
唇を噛んで俯いていると、
背中に先輩が手を添えてきた。
優しく微笑んで、先輩がその場を立ち去る。
それと同時に、晴くんが私の手を強く引いた。
晴くんにしては、弱々しい物言いだった。
私は戸惑いながらも、
いつもとは違って殊勝な晴くんが気がかりで、
そのままダンスを踊る。
ダンスの最中、お互いにかける言葉が
見つけられないせいか無言だった。
だからそのぶん、重ねた手を強く握る。
すると──。
晴くんもそれ以上の力で握り返してくれた。
そこで、いよいよ認めざるを得なかった。
私は逸らすことなく注がれている
晴くんの視線を受け止めながら確信する。
ダンスが終わると、
名残惜しい気持ちを押し殺して、
私は晴くんから手を離すのだった。
***
【晴side】
後夜祭から数日が経った。
今日は休日だが、俺は特にすることもなく
家でぼんやりとしていた。
俺は婚約破棄したのに、
今もあなたと住んでいた家から
出られずにいる。
思わず、自嘲的な笑みがこぼれた。
経験したことのない喪失感に
苛まれていることに気づき、
俺は嫌でも気づかされる。
あいつが先輩を好きかもしれないって思って、
嫉妬した勢いで言ってしまった言葉。
そのひと言で、俺は大事な女を失った。
ソファーの背もたれに寄り掛かり、
目を閉じていると──。
スマホの着信がなり、
かけてきたのが誰かも確認せずに出る。
俺は家を飛び出すと、高臣さんが
送ってきた式場の地図を頼りに
無我夢中で走った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。