女子の声が聞こえたほうに行くと、
やっぱりと言うべきかファンの子に囲まれた
晴くんの姿があった。
そう言いかけたとき、
女子に押されて晴くんが階段から
落ちそうになっているのに気づく。
慌てて助けに走り、晴くんの手を掴んだ。
引き上げるつもりが、
女の私に男の子の身体を持ち上げる力が
あるわけもなく……。
私は晴くんとともに、
階段から落ちてしまった。
どんっと大きな音がして、
鈍い痛みが身体を襲う。
立ち上がろうとすると、
捻ったのか足首に痛みが走る。
よろけた私の身体を晴くんが支えてくれた。
こちらの返事を待たずに、
晴くんは私を抱き上げて保健室に向かう。
晴くんは問答無用で保健室に行くと、
ベッドに私を下ろした。
保健室に先生の姿はない。
晴くんは湿布と包帯を探し出し、
不器用な手つきで手当てを始める。
気まずい沈黙が下り、
ソワソワしながら辺りに視線を彷徨わせて
いると──。
手元に視線を落としたまま、
晴くんが尋ねてくる。
きっかけは晴くんから離れるためだったけど、
今言ったことも本心だ。
悲しくなった私は、立ち上がる。
保健室を出て行こうとすると、
背後から伸びてきた腕に
抱きすくめられる。
そう思ってすぐ、
『お前と婚約破棄できて、せいせいする』と
言われたことを思い出す。
晴くんの手が私の顎を掴んで、
後ろへ振り向かせる。
唇が近づいてくるのがわかって、
私はとっさにその胸をどんっと押した。
まるで自分に言い聞かせるようにそう言って、
そのまま保健室を出ていく。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。