第23話

お前を離したくねえんだよ
3,026
2021/04/11 09:00
女子の声が聞こえたほうに行くと、
やっぱりと言うべきかファンの子に囲まれた
晴くんの姿があった。
あなた

(久しぶりの晴くんだ。
気まずいけど、
注意しなきゃだよね)

あなた

もう、道を塞がないでくだ──

そう言いかけたとき、
女子に押されて晴くんが階段から
落ちそうになっているのに気づく。
あなた

危ないっ

慌てて助けに走り、晴くんの手を掴んだ。
柴園寺 晴
柴園寺 晴
あなた……!
引き上げるつもりが、
女の私に男の子の身体を持ち上げる力が
あるわけもなく……。
あなた

きゃあああっ

私は晴くんとともに、
階段から落ちてしまった。

どんっと大きな音がして、
鈍い痛みが身体を襲う。
あなた

あたた……晴くん、無事?

柴園寺 晴
柴園寺 晴
俺のことはいいんだよ!
お前こそ、大丈夫か?
あなた

う、うん……いっ

立ち上がろうとすると、
捻ったのか足首に痛みが走る。

よろけた私の身体を晴くんが支えてくれた。
柴園寺 晴
柴園寺 晴
お前、その足……保健室行くぞ
あなた

え……わあっ

こちらの返事を待たずに、
晴くんは私を抱き上げて保健室に向かう。
あなた

ちょっ、ファンクラブの
女の子たちはいいの!?

あなた

(っていうか、お姫様抱っこは
恥ずかしすぎる!)

柴園寺 晴
柴園寺 晴
今は自分の心配だけしてろ
晴くんは問答無用で保健室に行くと、
ベッドに私を下ろした。

保健室に先生の姿はない。
柴園寺 晴
柴園寺 晴
先生……は会議か?
仕方ねえな、俺がしてやる
晴くんは湿布と包帯を探し出し、
不器用な手つきで手当てを始める。

気まずい沈黙が下り、
ソワソワしながら辺りに視線を彷徨わせて
いると──。
柴園寺 晴
柴園寺 晴
お前、いつ生徒会長を
好きになったわけ
手元に視線を落としたまま、
晴くんが尋ねてくる。
あなた

えっ、その……
まだ好きかどうかは、
わからないっていうか

柴園寺 晴
柴園寺 晴
はっ!? じゃあお前、
なんで婚約したんだよ
あなた

先輩が告白してくれて、
チャンスがほしいって
言ってくれたから、
私も先輩に向き合いたいなって……

きっかけは晴くんから離れるためだったけど、
今言ったことも本心だ。
柴園寺 晴
柴園寺 晴
あっそ
あなた

(自分から聞いてきたくせに、
『あっそ』って……)

柴園寺 晴
柴園寺 晴
俺、お前のせいで新しい婚約者を
あてがわれそうなんだよ。
いなくなっても迷惑なやつだよな、
お前って
あなた

(迷惑……なんか、
もう無理かも。これ以上、
晴くんに拒絶されるの、辛い)

悲しくなった私は、立ち上がる。
あなた

手当て、もう大丈夫だから

保健室を出て行こうとすると、
背後から伸びてきた腕に
抱きすくめられる。
あなた

なっ……んで……

柴園寺 晴
柴園寺 晴
俺だってわかんねえよ! 
ただ、お前を離したくねえっつーか
柴園寺 晴
柴園寺 晴
あの家にひとりで帰ると、
部屋が広く感じる。
今まではあれの何倍以上も広い
邸に住んでたのに、変だよな
あなた

え……あの家、
まだ出てなかったの?

柴園寺 晴
柴園寺 晴
俺がいたいって頼んだんだよ。
出られるわけねえだろ、んな簡単に
あなた

(もしかして、晴くんも寂しいって
思ってくれてたの?)

そう思ってすぐ、
『お前と婚約破棄できて、せいせいする』と
言われたことを思い出す。
柴園寺 晴
柴園寺 晴
あなた──
晴くんの手が私の顎を掴んで、
後ろへ振り向かせる。

唇が近づいてくるのがわかって、
私はとっさにその胸をどんっと押した。
あなた

私はもう、先輩の婚約者だから!

まるで自分に言い聞かせるようにそう言って、
そのまま保健室を出ていく。
あなた

(晴くんの、バカ!
なんで今頃、私にそばにいてほしかった、
みたいなこと言うのっ)

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