第10話
甘いクレープで縮まる距離
柴園寺くんはお店を出ると、
ブラックカードを片手に、
ランチワゴンに向かう。
案の定、柴園寺くんは解せないという顔で
私を見てくる。
私はため息をつきながら、
彼の隣に並んだ。
カルチャーショックを受けている柴園寺くんに
構わず、私はクレープの値段を見る。
私はお財布から500円玉を二枚出す。
頭を過ぎるのは、生徒会の仕事で
柴園寺くんのファンクラブの女の子たちの
暴走とクラスの男子の不満を宥めたときのこと。
柴園寺くんはさっさとひとりで
リムジンに戻ろうとする。
私は慌ててクレープをひとつ買い、
彼の手を掴んだ。
どういう意味だよ?と言いたげな顔をする
柴園寺くんを連れて、
一緒に公園のベンチに座る。
パクっとクレープにかじりつくと、
舌の上でバニラの甘さとイチゴの酸味が
絶妙なバランスで広がる。
柴園寺くんが隣にいることも忘れて、
パクパクと夢中で食べていると、
ふいに視線を感じた。
顔を上げれば、柴園寺くんが私の手元にある
クレープを見てうずうずしている。
笑いを堪えながら
紫園寺くんの出方を待っていると──。
柴園寺くんはクレープを持つ私の手を
上から掴んで、自分のほうへ引き寄せた。
そして、私の手からクレープにかじりつく。
ぺろりと唇を舐める柴園寺くんに、
鼓動が跳ねた。
不覚にも見惚れていると、
柴園寺くんは急に私から生活費の入った
お財布を奪って、すくっと立ち上がる。
どこに行くかと思ったら、
ちゃっかり自分の分のクレープを買っていた。
隣に戻ってきた柴園寺くんは、
クレープを食べ慣れていないせいか、
口の周りにクリームをたっぷりつけている。
私は笑いながら、
手で柴園寺くんの口元を拭ってあげた。