
第10話
10歩目
この察しの良い弟には誤魔化しが効かない。
真広は私を置いて歩く。
私の口から浅い溜め息が漏れる。
私は先に歩いて行ってしまう真広の後を追いかけた。
急いで夕食を作り、食べた後シャワーを浴びることにした。
熱めのシャワーが疲れを癒してくれる。
ガラガラ
誰かが洗面所を開けて入って来る。
返事はない。いつもなら、絶対に冷たい返しがくるはずなのに。
洗面所で何かを探している音が聞こえる。
振り返るとドア越しに白い服に黒いズボンを着た人影が、歩いているのが見えた。
返事はない。
私はドアを少しだけ開けて顔だけ出した。
そこには誰も居なかった。
洗面所の扉の向こうから遥斗の声が聞こえた。
私は少しの違和感を覚えつつも、自分の勘違いということにした。
風呂から上がって、私はベットに座り髪を乾かす。
遥斗は机の上に座り、不服そうな目で私を見つめる。
遥斗が無邪気な笑みを浮かべる。
頬が熱くなるような感覚が分かる。
そんな状況で眠れる訳がない。
遥斗が机から降りて、私の横に座る。
先程まで笑っていた顔から、真剣な表情をしている。
冷たい手が私の頭を優しくポンポンと撫でる。遥斗は壁をすり抜けて部屋から出て行った。
私の心拍が少し速くなった。
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