5月半ば。
桜も散り、緑が辺り一面に広がり始めたそんな季節。
緊張もしていたけど、お辞儀の後には皆の歓声や拍手が響き渡った。
このクラスで何とか頑張っていけそうな、そんな気がした。
HRを終えると、クラスの皆が一斉に私の方に駆け寄ってきて自己紹介等をしてくれる。
1ヶ月ちょっとどうして休んでいたのかなんて聞く人は誰もいなかった。
気を遣ってくれていることに申し訳なさを感じながらも、皆の優しさに触れ自然と笑顔になれた。
放課後になり、仮入部みたいな感じで部活が始まっているらしく、皆楽しそうにそれぞれの部活場所へ走っていく。
たくさんの本を抱えながら恥ずかしそうにそう言う女の子を見て、私はなんだか懐かしさを感じた。
無意識に口に出ていた。
幸い目の前の女の子には聞こえていなかったらしいが、何だか無性に会いたくなる。
中学校に通い始めた今も、週3のペースで結奈ちゃんのところに遊びに行きたくさん笑ったり歌ったりしている。
それでも温もりが感じられない寂しさは付き物で。
思い出して泣きそうになるのを必死に堪え、私は目の前にいる女の子に笑顔でお願いします!!!と答えた。
結構大きな学校のようで、覚えるのに苦労しそうだ。
話しかけられるのに慣れていないのか、隣で本をずっと抱えている女の子は身体をびくつかせながらも、可愛い声で答えてくれた。
ふわっと笑うその笑顔が本当に結奈ちゃんそっくりで、もっとたくさん話したい、咲ちゃんのことをいっぱい知りたいと思った。
本のことになるとさっきよりも笑顔が明るくなって、楽しそうに話す咲ちゃんに私も笑顔になれた。
好きな本や、咲ちゃんお気に入りの場所などを話ながら学校を回っていると、あっという間に1時間が経っていた。
部活もそろそろ終わりなようで、至る所からお疲れ様でした!!!と言う元気な声が聞こえてくる。
私が笑顔で手を振ると、咲ちゃんも照れながら笑顔で手を振ってくれた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。