第6話

うじうじしていられない
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2020/05/01 06:23
あなた

結奈ちゃんなんて、大っ嫌い!!!!!!

よくあんなこと言えたな…なんて、今更後悔しても遅いのに。

本当に嫌いなのは、大好きな親友に八つ当たりした私の方だ。












結奈ちゃんのお葬式には行かなかった。

と言うより、あんなこと言っておいて行ける訳がなかった。

大好きな歌を歌う気力も出なくて。

ただただ部屋に引き篭る生活を続けた。

中学校も始まっていたけど、そんな所に行く余裕もなかった。

ママも家族も皆、気を遣ってか何も言わないでいてくれた。

本当なら看護師さんにも、ママにもちゃんと謝らなきゃいけないのに。
あなた

──もう、こんな自分大っ嫌い…
ごめんね、結奈ちゃん…
ごめんなさい、ごめんなさい…

今日は一段と泣いた気がする。

いつも通りだけど、私は眠気に勝てずいつの間にか意識を手放していた。










結奈
結奈
あなたちゃんらしくないね
あなた

──ゆ、結奈ちゃん!?
え、え、なんで…なんでここに…

結奈
結奈
そんなことはいいの!!!
──あのね、お礼を言おうと思って。
あの歌、凄く良かったよ…嬉しかった…
あなた

で、でも私最後に…大嫌いって…
結奈ちゃんに酷いことを…
許してもらえなくてもいい、
でもごめんなさい…

結奈
結奈
いつものあなたちゃんじゃなくて変なの。
怒ってないし、恨んでもないよ。
私の初めての親友だもん、大好きだもん
結奈
結奈
苦しいことも、楽しいことも、悲しいことも、どんなこともあなたちゃんが居てくれたから知れた感情なんだよ。
あなたちゃんが隣に居る時、私凄く幸せだったんだよ?あんな暖かい体温知らなかった。あんな暖かい気持ち知らなかった。だ…ら、…いで…ず…てるよ…
結奈ちゃんの体がぐらぐら揺れて、声も何を言っているのか分からなくなった。

待って!!!置いていかないで!!!そう手を伸ばした時には、私はいつもの日常に戻っていた。
あなた

──結奈ちゃん、本当に怒ってなかった…
なんかうじうじしてるの申し訳ないな…あ、そうだ!!!

締め切っていたカーテンを一気に開けると、目が開けられない程太陽は輝いていた。

結奈ちゃんが死んでから、1ヶ月ちょっとが経った。

(なんで今まで夢に見なかったのに、今日は見たんだろう)
あなた

──お、おはよう…ございます…

恥ずかしくて、顔を合わせるのが変に緊張して、私は家族に向かって敬語で挨拶をしていた。

(だって1ヶ月ちょっとぶり!!!)

こんな私に呆れてないかな、嫌いになってないかな、なんてそんな見苦しいことを考えてしまう。
パパ
パパ
どうした!?
なんで家族に向かって敬語なんだ!?
え、なんかごめんな!?
ママ
ママ
──ふふふっ、面白いことするわねあなたったら…そんな怖がらなくてもいいのよ。誰もあなたを責めたりなんてしないから
あなた

──!!!ママ…う、ううっママぁぁぁ!!!
ごめんなさい、ごめんなさい!!!

家族の温かさと優しさには負けてしまう。

毎日枯れるんじゃないかって程涙を流したのに。
あなた

あ、あのね、
結奈ちゃんのお墓参りに行ってくる。
あと、看護師さんたちにも謝らなきゃ

ママ
ママ
そうね、結奈ちゃんも看護師さんも待ってると思うわ
ママに病院まで車で送ってもらい、私は結奈ちゃんが居た病棟に足を運んだ。

緊張していて手足が震える。

それでもこんな所でうじうじしていられない。
あなた

──あ、あの、お久しぶりです…

看護師さん
っ!?あなたちゃん!?
久しぶりね、1ヶ月ぶりかしら…体調どう?しんどくない?
やっぱり私のことを怒ったり冷たくあしらったりしない。

それどころか、私の体調を気にしてくれている。

なんで…その一言が聞こえていたのか、看護師さんはクスッと笑った。
看護師さん
看護師だもの、当たり前じゃない。
──手が届くのに救えない命があるのは、何度経験しても辛いんだよね。でもそれでも次は救いたい。だからいつまでもうじうじしていられない、病院で働くって大変よね
目の前で息を引き取っていく人たちを何人も見てきたんだろうな…そう思うと、看護師さんやお医者さんって本当に凄いんだなと思う。

泣きそうになるのを必死に堪え、私は大きく深くお辞儀をして病棟を後にした。

正直大嫌いな病院。

でも今日だけは、なんだか温かさを感じた不思議な場所に思えた。

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