ミンギュとの最後の人生。彼とはまだ出会っていない。生まれているのかどうかも、定かではない。例外なんていつ起こるかわからないから、今世は出会わないかもしれない。そんなこと考えてしまうほど、1人になって長かった。
それにしても、つまらないな。あいつがいない人生が、これほどつまらないとは。やりたいことも全部やって、夢も叶えて。大型モニターにいつぞやのミュージカル映像が流れている。あの頃が1番楽しかったな。
公園のベンチに座ると、遠くで高校生達がはしゃいでいるのが聞こえた。コロコロとひとつのボールが転がってきて、僕の脚にコツンと当たった。
『すいませーん、今そっち行きます!!』
焦りを含んだ声で1人の青年が走ってくる。
「はい、どうぞ。」
『ありがとうございます!!優しいですね…あなたはずっとそうだ』
「…え?」
不思議な言葉を残し、ニヤッと笑って去っていった。駆けて行く彼の背中には、既視感がうっすらとあって。僕は目が離せなかった。
しばらくして、ミンギュと再開するんだけどどんな毎日だったかは、秘密にさせて。恥ずかしくて、大切にしたい思い出が沢山だから。
ただ、これだけは言える。もし、ミンギュと出会わなければ、僕は悪魔のような死神に成り果てていただろう。世界を悲観的に見て、人を見下して。そうならなかったのは彼がいたから。人との関わり、愛すること、生きる喜びを教えてくれた。あたたかい心をくれた。
彼は最後の人生を全うして、僕のそばから離れていった。これから、一人。気が遠くなるほど、一人の毎日が始まる。
これから4人の墓に行こうと思う。彼との人生は毎回違くて、持っていく花も違くて。ちょっと大変だけど、それもまた楽しいんだ。
想いを込めた花達を庭から収穫して、包んで持っていく。
4人目のミンギュにピンクの綺麗な花を供える。モノクロだった空間に言葉どうり花を添えて、華やかに、寂しくないように。
「また来るよ、元気でな」
僕を押し出すように強風が吹き、サザンカの花びらがひとつ、風に乗って飛んで行った。
*サザンカ*
科·属名 ツバキ科ツバキ属
学名 Sasanqua
繁盛期 11~12月
花言葉 『永遠の愛』
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。