第3話

1*シオン*
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2019/03/15 08:46
 ミンギュと初めて出会ったのは、戦場だった。僕らは雑兵としての駆り出されていた。こちらの勝利は確実で、戦線維持の際もどこかふわっとした空気があたりを包んでいた。脅威が薄いことは誰の目にも明らかだった。退屈を凌ぐため、ミンギュとはいろんな話をした。

村に残してきた妹に自由に生きて欲しい

彼が常に言っていたこと。その達成の為に自分はここまで来たのだと、語る彼の表情は堅い決意と、少しの不安が混ざっていた。自分にも姉とは言えど女姉弟がいるため、他人事とは思えなかったことを覚えている。

無事、戦いに勝ち、日常は鍛錬一色に染まった。そんな日々の中でも楽しさは忘れず、僕らは皆が寝静まるまで話し込んだ。故郷の思い出、兄妹のこと、将来の夢のこと。生き生きと話すミンギュの顔は今でも鮮明に思い出せる。自分と同じ年の彼がどれほどの不安を抱え、秘密を抱え、生きていたのだろう。もっと彼を見ていれば…だったら彼を救えたのに。

事が起こったのは、余裕の勝利から一年経った、雨の降る日だった。日もすっかり沈み、朝日を待っていた街に、悲鳴が響き渡った。まさに青天の霹靂で、僕は飛び起きた。慌てて外に出ると、遠くの方で人だかりがあるようだった。…何があったんだろう。わらわらと出てくる人の間を縫い、騒ぎの中心部に近づいた。

「大人しくしろっ!!早く、縄を!!」

『っ離せ!!俺は悪くない!!悪いのはこいつだろ!!』

四、五人の男に取り押さえられ、暴れているのは僕の親友だった。初めて見る、獣のような恐ろしい顔。僕の知るミンギュはそこにはいなかった。

彼は宮の地下に投獄された。何故、彼があんな行動に出たのか、僕には想像も出来ずにいた。家に帰ると、井戸端会議をしているおばちゃん達と行きあった。いつもの様に世間話をしていると、

「ところで、ドギョマ。この間のー、門の前で暴れとった人、あんたよく知った子やったやろ。」

『うん。でもあんな顔、初めて見たんだ。結構仲良かったはずなんだけど…なんであんなこと…』

「その事なんやけどな、あそこの家、どえらい借金抱えてしまったそうなんやて。で、あの子の父さんが難癖つけられて殺されてしもうたんや。その難癖つけた人が昨日襲われた人。」

ここまでを整理すると、キム家がある人物からお金を借りた。その貸付屋はバックの大きい悪徳業者だった。借金の返済に苦労したキム家は父を殺され、子2人が残された。長男のミンギュは幼い妹を養うため、ここに来た。

…知らなかった。あいつにそんな過去があるなんて。妹のことを話す表情に少し影があったことを思い出した。しっかりサインは出ていたんだ。僕が気づかなかっただけだ。…あいつの事何も知らなかったんだな。自分の不甲斐なさに落ち込んだ。

後に、ミンギュへの罰が決まった。それは、極刑だった。…酷すぎる。彼のしたことは簡単に許すことは出来まい。でも、いくらなんでもやりすぎだ。間違いなく、貸付屋は大臣たちの誰かと繋がっているだろう。尻尾は掴んでも、暴く術は見つからなかった。

時間は無慈悲にも過ぎ、処刑の日がやって来てしまった。ミンギュが連れられ、台に上がる。彼は僕に気づいたようだった。悲しげな表情を浮かべ、言った。

『妹を…頼む』

この距離では声など聞こえない。だが確かにあいつは言った。田舎に残した彼の妹を、僕は託された。

「…必ず、僕が守る!」

大きな声で、あいつに届くように。涙を溜めて、力強く頷いた。…届いた。瞬間、短い斬撃音が広場に響いた。ひたすらに涙を流す僕の目は、建物の影に消えた怪しい影をしっかりと捉えた。

今年は、何百回目かのミンギュの命日。争いの世を生きた逞しい命が、ここに眠っている。あの死が正当なものだったとは信じていない。今も視界の端に映った奴を探している。

「僕は必ず、君も守るから」

毎年供えるシオンが、今年は特に綺麗に咲きあがった。

*シオン*
科·属名 キク科シオン属
学名 Tararian astar
繁盛期 9~10月

花言葉 『君を忘れない』

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