川にぶち当たった体が少し痛い。
もう、息ももたない。
意識が薄れていく感じがする
助からないとわかっているのに手を伸ばした。
ぐいっと手を引っ張られだんだん水面に近づいていく。
太宰さんは僕を、優しく包み込む
冷たい。
僕のせいで冷たくなってしまった太宰さんはまだ抱擁をとかない
人に抱きしめられたのはいつぶりだろう
いや、生まれてから1度もなかったかもしれない。
僕も太宰さんをぎゅっと抱きしめてみる。
僕はこの名前はあまり好きではない。
親に捨てられたし、孤児院からも追い出された。
でも1度もこの名前を呼んでもらったことは無い。
それが嫌なだけなのかもしれないけれど
言葉が詰まる。
こんなしょうもない理由。
云いたくない。
でも、本当はこんな惨めな僕が嫌いなだけなんだ。
昔のことを思い出したくないだけ。
そう云い笑顔を向けてくれる。
あぁ。
貴方とはもう少し早くに出会いたかった
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。